「うわぁ?! どちらさんですたい?!」


俺にプリントを回した瞬間、前に座っていた人はすんごい顔で、すんごい訛った感じの声を上げた。


俺、どうしようもなくて・・っていうか、どうしたらいいのか分からなくて、どもりながら片言で言う。



「て、転校生のっていう者です。怪しい者じゃありませんよ!!」



途端にうまれる、クラスからの爆笑と、前の席の人からのきょとんとした視線。



「猪里ちゃん、朝寝てるからわりぃんだYo!」



笑いを含んだ虎鉄の声でなんとか納得。


俺も、猪里と呼ばれたその人も。
















***2***
   出会っちゃったもん勝ち



















休み時間になると同時にクラスの人たちが俺を囲んだ。

背の高い方ではない、むしろ小さい俺にとってなんだか威圧感ありありだ。



「ねぇ君、野球部入るって本当?」



一人の女子・・・(名前はまだ覚えていない)子が1番に聞いてきた。

ワクワクという効果音が付きそうなほどの眼差しで。



「え? あ、うん。そのつもり・・ってかそのために転校してきたようなもんだし」



ニコって笑顔を向けて女の子向ければ、恥ずかしそうにはにかまれた。


・・・女の俺にそんなことされて嬉しいのか?


という疑問はおいといて、好かれるのは嫌いじゃないし。嫌いな人なんていないだろうし。



「えー、じゃあお前野球強いのかよ? そんなちっせぇのに」



クラスの男子・・えーと(名前覚えてない)・・が笑いながら言ってきた。



「ぅお?!ち、ちっせぇとかいうなよ!!なんだよぉ、宣戦布告か?!俺は平和主義者だから降参するぞ?!」



「はぁ?」やら、「何それ?」という言葉と共にどっと笑い声。


つられて俺もかははっと笑う。


なんだ、このクラスにも、男としての自分にもしっかりなじんでるじゃん!




「あ、ごめん。ちょっとトイレ〜」



そう言って、俺は教室を出た。


いや、本当にトイレに行きたくて。








少し歩いただけなのに、やたらいろんな人に声をかけられた。


皆優しくて、面白くて気さくな人ばかりだ。


自然と機嫌もテンションも上がっていく、俺。


ちょっとおかぁさんに感謝だったりして。





「って、ここはどこだ・・?!」


忘れてた。

浮かれすぎて、油断してしまった。


「くそぅ・・はめられた」






俺は、方向音痴なのだ。







「どどどどうしたらいいんだぁ?!」


なんてでっかい声で独り言を言っていると、いやむしろ叫んでいると

運良く、こちらを誰かが見ていた。

・・ん? こんな恥ずかしいところを見られたってことは運が悪いのか?



「そ、そこの人ぉ・・! 哀れな転校生を助けてぇ・・!!」



なんて泣きつく様に言いながら、しがみつけば



「デ・・デカ・・・?!」



なんとも長身な色黒の男子だった。


・・しかもかっこいいなぁ・・!!


いや、ときめいてどうする?! 俺、今オトコなんだよ!!


見上げるようにその人を見ていると、その人は戸惑ったような表情をしながら顔を赤くした。



「え、あ、すいません。先輩ですよね・・? えと・・俺、転校してきたもんで何にも知らなくて、スイマセンー!」



と、離そうとした手を逆に掴まれ、少し放心。



「・・“俺”? 男っすか・・?」


明らかに怪訝そうな顔をしながら、その人は俺に聞く。

いやいや、学ラン着てますから・・!ってかバレたの?!

と内心焦りながらも平静を装う、俺。



「え?・・な、ガガ学ラン着てるんですが?!俺は男ですよ!?」



なんて言っていたら、いきなりその長身色黒イケメン君(長い)は表情を険しくした。



「とりあえず、こっち来てください・・!」



ぐっと腕を掴まれたまま近くの準備室らしき部屋に押し込まれる・・とその人も入ってきた。


その直後に地響きのような大量の足音と黄色い声。



・・ドドドドドドド



『あれー?犬飼キュンここにいたよね?』

『いたわ、絶対ここに!だって私の犬飼キュンレーダーが反応していたもの!』

『もう、そんなこと言って、この前もいなかったじゃない!』

『そういえば今日転校してきたっていう男の子も可愛くて、かっこいいらしいわよ♪♪』

『知ってる、知ってる!“かっこいい”って言う人と“可愛い”って言う人がいるのよね〜!』

『私見たわよ!背は小さかったけど、かっこよかったわぁ・・』



ドドドドドドド・・・






「「・・・・」」



な・・なんだったんだ・・?

民族大移動・・?


っていうかこの人が“犬飼君”かな・・。



うん。かっこいいね、犬飼君


うん。密着しすぎだよね、この体制。


うん。俺男じゃなかったら今の子達に殺されちゃうよね。


・・てか男でも殺されちゃうんじゃ・・?


だってほら、なんか俺犬飼君と壁の間に挟まれてるし、向き合ってるからほとんど抱き合ってるみたいな体制だし。


今の子達の望むようなシチュエーションじゃあないですか!!




あぁ・・女だってばれないかと、緊張してしまうんですが!!




「・・・とりあえず、すいません」


犬飼君という人は俺の両側にある手を少し動かしながらそう言った。


・・なんで敬語・・?



「いえいえ・・お疲れ様です。あれ、いつもなんすか?」


「えぇ・・まぁ」




「「・・・なんで敬語なんすか?」」



二人の声がはもった瞬間、犬飼君の少しつった瞳が俺と合った。



「とりあえず・・俺は後輩なんで」
「えと・・俺後輩だし・・」



「「・・・・」」




「・・え? 何年・・・ですか?」


「・・1年っす」



「・・・。・・いや、ハハ。
嘘だよね? ・・嘘だって言えよぉ・・なんで俺のほうがこんなにちっさいんだよ・・!」



なんか知らないけど滲んだ涙のことは放っておいて。


もう、ここは出ていいんじゃないかと思う。


いや、今の子達に殺されちゃうし。



・・そういえば今の子たちの言ってた転校生って俺のことか・・?


・・俺、モテモテ?


いやいや、犬飼君はこんなにかっこいいんだぞ?!俺なんてチンチクリンだと思うんですが?!


・・それ以前に女だし。



「あのさ、じゃあ・・犬飼君、いや犬飼・・ここ、もう出て平気なんじゃ・・?」



「・・・・。えと・・すいません。とりあえず、開かなくなったんす」



「・・・」



ごめんね、犬飼君のファンの子達。

俺だけこんなスペシャルアクシデントに巻き込まれちゃって。































犬飼きゅんvvv
もう大好きですよ、この子!!
だから1年生なのに初っ端から出しちゃいました。
予定が変わりました。
早く部活を始めてくれって感じなんですが、もうちょっと待ってやってください;;
ALL逆ハーなのに・・犬飼君にものすごく偏ってないか?
いえいえ、これからですよ!!(何



     



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