少しだけ背伸びして、大人っぽい服を着た。
少しだけ背伸びして、メイクをした。
あなたともっと釣り合いたくて、
あなたにもっとふさわしくなりたくて。
なのに、なのに。
「なんで不機嫌なの」
「不機嫌なんかじゃないですよ」
「嘘。今日、あんまり目合わせてくれてない」
「嘘なんかじゃありません」
ねぇ、なんで。
ねぇ、どうして。
「私じゃ、物足りない・・?」
「!?・・っ何言って」
いつもの微笑が消えていた。
怒ってた。
怒ってた。
私に向けた目が、少しだけ恐かった。
「っ・・いた・・・!」
振り向きざまに、腕を思い切りつかまれた。
なのに、・・少しだけ嬉しかった。
萌太は今、私をしっかりと見ている。
「何を言ってるんですか!?そんなこと思ってるわけないでしょう!?」
「じゃあなんで・・」
「なんでなんてこっちが聞きたいですよ!!」
「・・・え・・?」
萌太の端整な顔立ちの眉間にくっと皺が寄る。
なんで、
なんで、
そんな顔、するの・・?
やっぱり、私の方が、なんでって聞きたいよ・・・。
萌太の顔が少しだけ俯き、髪がさらりと流れた。
「なんで・・・、なんで貴女は一人で綺麗になっていくんですか・・・?」
「え・・?」
「なんで、一人で大人になっていくんですか?僕を置いていってしまうんですか?」
それは、
「私の方、だよ」
萌太が顔を上げて、え?と不思議そうに首を傾げた。
私はなぜだか泣きそうになるのを必死に堪えて、続ける。
「萌太は、大人っぽくて。綺麗で、かっこよくて、余裕で、大人の女の人にも好かれて・・・私、わたし、
・・・萌太に釣り合いたいの」
あと何歩で、追いつける?
あと何をしたら、相応しくなれる?
あと、どのくらい背伸びをすれば君の頬にキスできる・・・?
「馬鹿ですね」
本当に馬鹿です、と萌太は微笑んだ。
いつもより、少しだけ泣きそうな笑みだった。
いつもより、近くに感じた。
「僕はが好きなのに、僕はを追っていた」
「私は萌太が大好き。萌太には追いつかなきゃって必死だったよ」
「・・・馬鹿ですね」
「本当に・・・!」
笑って、笑って、手を繋いで、
キスをした。
照れて、笑って、一緒に歩いた。
ねぇ、僕たちは
同じ距離で
同じ位置で
同じ愛を、抱いてますよ。
背 伸 び