そんな質問よっぽど嫌われていない限り、答えなんて決まっているようなものだ。

だが、そこは伶奈。



「普通です!」



バッサリ。



人識が凹んだ、むしろ両断された音が聞こえた気がした。

伶奈はへらへらとしたいつもの笑顔を浮かべたまま、人識の前でつま先立ちしたり戻ったりゆらゆらしている。

悪気がない本音なのが、また痛い。



「な、無し無し!!どっちかだって言ってるだろ?好きか、嫌いか!」



必死の声をあげる人識。

もう、なんだか可哀想だ。



「えー」



そんな人識に伶奈はどうでもよさそうな声を漏らす。

ちらちらとこちらに目線を送ってくるところを見ると、飽きたから助けてくれ・・・というところだろう。



「伶奈ー・・・俺は伶奈好きなんだぜ?」



ぎゅっと伶奈の両頬を両手で押さえ、あの勝気で常にどことなく余裕な表情の人識が眉を下げる。

困ったような苦笑を浮かべる姿は、本当に伶奈のことが好きなことが伺えた。



「・・・・・・人識くん」



そんな人識を身長が故に見上げる形の伶奈は、じっと人識を見つめ返す。



「伶奈・・・」


「・・・いーくん、ちょっと目を瞑っててくださいな!」



人識に顔を固定されたままの伶奈は、右手をキツネにさせて擬音するならば『コンコン』とさせながら言う。

その手の意図はよくわからないが、僕は自分の手を目に当てて「瞑ったよ」と素直に返した。

勿論、指の隙間から二人の様子を伺っていたのことは言うまでもない。



「よし。伶奈は今から初めての浮気をします!」


「「え?」」


「ごめんね、いーくん!」



二人分の声が重なったすぐ後の伶奈の謝罪の声。

人識が次に声を発する前に、唇は伶奈のものと重なっていて。

驚いて見開いたままの瞳は零距離の伶奈を見つめたままだった。



「・・・・・・はぁっ、人識くんの目好きだよ」



赤くて兎みたい!と言いながら、放心状態の人識の腕から伶奈はするりと逃げ出した。

そして僕の隣りにパタンッと座り、いーくんの目は死んだ魚!と楽しそうな声をあげる。

・・・嬉しくはない。



「いーくん、目あけていいよ」


「・・・ん」


「ごめんね、いーくん」


「・・・・・・」


「怒った?」


「僕にはあの三倍をくれるんでしょ?」


「勿論!・・・って見てたな?」



さぁ、と曖昧に返せば、伶奈はどこかわかっていたように笑った。

伶奈の予想外の行動に中てられた人識は未だ放心状態。



「あーあ。零崎かわいそう」


「思ってないくせに」


「まぁね」



困った恋人をもらったものだ。

僕は表情にはださず、ちいさく笑った。













恋人は、小悪魔。





無意識なのが、厄介だね。