いつも上から目線で物言う貴方が、なんだか可愛い
今は・・・そんな瞬間。
どんなあなたも好きだって!
「ま、待て待て待て!」
「なにー。腕掴まないで、裾握らないでー」
「な、おま、ちょっと冷たいんじゃね!?」
ここは真選組の屯所。
大部屋から自室へ戻ろうとする私を縋り付くように止めるのは、あの鬼の副長(のはずの)土方十四郎。
「もう寝るのー。トシ構ってる暇ないの、山崎にでも引っ付いててよ」
「じゃあ俺も寝る俺も寝る!!」
「えぇ」
あからさまに嫌そうに目を細める私に、トシはなんだよ、なんて言いながらも、腕は逃がさんとばかりにがっしりと私の腰を抱いていた。
「土方さんお化けが怖いんですかィ?ったく、彼女に縋り付くなんて情けねぇや」
「うるせぇ総悟ぉお!!お前、明日の…明日の昼間は覚えてろよ!?」
「・・・・・・(トシ、馬鹿・・・)」
未だ大部屋には何人かの隊士が残っていて、総悟もその中でこれみよがしにケラケラと笑っていた。
先程まで行われていたのは、暑い夏恒例の怪談大会。
怖いなら聞かなければいいのに、変なところで意地っ張りなトシは総悟の挑発に乗ってまんまと参加。
そして私に引っ付くなんて…本当に馬鹿だ。
「。今日は一緒に寝るからな」
「えー、嫌だよ。あっついし、トシと一緒に寝るとえっちなことしてくるし」
「しない」
「嘘。そー言ってこの間・・・」
「ホンットすみませんでした」
「おま、・・・んな格好でいつも寝てんのか?」
「こーいう暑い日だけ。さ、寝よ寝よ!・・・・・・変なことしたら大声出すからね」
私の部屋に布団を敷き、行灯に寝るのにちょうどいい薄暗い明かりを点し終え、・・・いざ寝ようという時。
トシは私を上から下へ見つめ、言ったのだ。
私の格好はキャミソールと下はパンツだけ。
まぁ・・・・・・トシがそう言いたくなる気持ちもわかるけど・・・暑いんだもん。
「・・・・・・(くそ、まじかよ)」
「・・・トシ?」
ゴロンと布団に転がってトシを見上げれば、片手を額に宛ててはぁ・・・と一度溜め息を吐き、ゆっくりと私に視線を合わせた。
「?」
「・・・我慢できる自信がね」
「あ、トシの後ろに白い女!!」
「!!」
ズザァッ!と私に飛び付く程の勢いで布団に突っ込んで(転がり込んで?)きたトシを、私はぷっと笑った。
「・・・トシ・・・・・・可愛・・・い」
「ばっ、テメ!!脅かすんじゃねぇ・・・!!」
「だって・・・トシ可愛いんだもん」
クスクスと笑いを止められないまま、私は隣に寝転んだトシに体ごと向いた。
「ねぇ?」
「・・・・・・ん?」
私が未だに笑っているのが気に入らないのかこちらを向かないトシ。
私は気に止めることなく続けた。
「抱きしめて・・・いい?」
「・・・・・・は?」
瞳孔が開き気味のあの鋭い目が丸くなり、私を見る。
その目を私は怖いと思ったことはない。
「・・・いいじゃん。トシ、こっち来て」
「ちょ、おい・・・!」
トシの頭が自分の顔より下にくるように、腕を回して抱きしめた。
いつもトシが私にしてくれるように。
言葉ではなんとか言っていてもトシは抵抗はしなかった。
私はトシの癖のある黒髪に指を絡ませ、ゆっくり二度三度と髪を梳くように頭を撫でた。
「・・・・・・」
「・・・ふふっ」
なんだかこの位置が新鮮で、トシが本当に可愛く思えて、私を照れ隠しのように睨むトシの額に・・・そっとキスをした。
「好きだよ・・・トシ。どんなトシも大好き」
「・・・・・・馬鹿が」
「・・・私が男でトシが女だったら、私はいつも…トシをこんな風に抱きしめるのかな」
「・・・・・・どうだかな」
機嫌がいいようでえへへなんて笑いながら、また俺の頭をぎゅうっと抱きしめる。
俺としては微妙な気持ちだが・・・・・・好きな女に抱きしめられるというのは悪くはない。
・・・・・・というか胸がちょうど顔面にくるのはコレ・・・狙ってるのか?
「なぁ・・・俺は、お前の前だけはこうして何に構えることなく、無防備でいられんだ」
「・・・・・・」
「俺だって・・・お前が大切で・・・・、すっげぇ・・・好きだ」
「・・・・・・」
「・・・おい、聞いてんのか」
「・・・すぅー」
「・・・まじかよ」
眠っちまったを見上げれば、幸せそうに目を閉じてて・・・俺の髪に絡めた指が少しだけ動いた。
なんだかそれだけで、おれは満たされた気分になった。
「・・・・・ありがとな」
“俺を好きになってくれて”
瞼を閉じれば、溶けるように吸い込まれるように心地よく、俺は眠りに落ちていった。
夢の中でトシが言ってた。
ありがとうって。
私は笑って言った。
言ったでしょ、
どんな貴方も好きだって!
朝起きると、
抱きしめられているのは・・・・私の方だった。
(拍手ありがとうございました!)