結んだ糸は解けてしまうから


絡めた指は離れてしまうから


言葉はすぐに消えてしまうから





確実な失わぬモノを

私にください。









「それって束縛?」


「違う」



ヘラリと…いや、ニヤリと笑う口元がなんとも憎たらしい。

まるで不思議の国のアリスで人を馬鹿にしたように惑わせるチェシャ猫のようだ。



「ふーん、つまんね」


「束縛されたいの?」


「されたくねー。それを理由におまえを虐めようと思っただけ」


「……」



笑いがでるほど、意地が悪い。


それにしても、どうしてこんなやつの傍になんかいなきゃいけないんだ。

直ぐさま自分の部屋に駆け込んでふかふかのベッドに潜り込み、睡眠を貪りたくて仕方がない。


…あぁ、そうだ。

私はコイツのカノジョだから。

ふん。なんて滑稽な理由。



「馬鹿じゃないの。それなら早く任務にでも向かって、好きなだけ虐めてきなよ」


「うるせぇな。言われなくても行くしー、おまえ邪魔だからどっか行けよ」


「は?ベルが呼んだくせに、そういう事言うんだ?」


「ししっ、だって俺王子だし、お前みたいな一端の庶民どう扱おうが関係ねー」


「本気で殺したくなった」


「ん?殺る?いつでもかんげー」



そっぽ向きながら、黒いコートをばさりと羽織る。

私の相手なんて本当片手間。



「……部屋帰る」


「ん」


「…次はいつ帰る?」


「一週間後くらいじゃねーの」


「ん。……じゃ」


「おい」



聞こえた声が思いの他近くて、思わずドアを開ける手の動きを止めた。

今日初めて私の存在、認められた気分。



「俺のこと、ちゃんと好き?」



笑ってない、その表情が。

絶対的な威圧感が。


身を震えさせる。


とてもとてもいい意味で。



「勿論。…殺したい程だーい好き」



満足そうなベルに口付け、部屋のドアを開けた。






甘辛いくらいで、ちょうどいい。



キスなんて一度で十分だ。



だって次に会う時は、壊れるくらいにお互いを求め合うのだから。





ニッと笑ったあんたの言葉。


果たさなかったことのない約束。








「おまえに殺されるために、ぜってー死なない」








失わない言葉の約束。


(言葉は消えてしまうのにね)