「嫌い・・・・・大っ嫌だよ馬鹿ぁあっ・・!!!」






































髑髏なんて嫌いだ。


髪を真似て、骸様の力になるとほざいて。

無力なくせに、何も出来ないくせに、甘ったれたただの女の子のくせに。

貴女だけが骸様の特別のように、頬を染める。



「・・・っ・・」



骸様の武器を持って、骸様の笑い方をして。

私の知らない世界で貴女は骸様と会っている。

・・・私は、会えない、のに。



「・・・ぅ・・ぐっ・・・・・き・・らい」



嫌い嫌い嫌い嫌い。

特別な髑髏も、帰らない骸様も・・・・




「き、らい・・・キライ、嫌い嫌い嫌い嫌い大ッ・・嫌い!!!!うぁああぁあっ・・・――!!」




きつくきつく握り締めたベッドのシーツに濃く皺が刻まれる。

ぱたぱたと零れ落ちた滴は真っ白を薄い青色に変えた。

止まらない、止められない。



何度何度涙を流しただろう。

何度何度犬と千種に心配をかけただろう。

苦しいのは私だけじゃないのに。



「ぁあっ・・・ぅぐっ・・・ぅぅ・・!!」



骸様、骸様骸様。

ねぇ、骸様は私のことが嫌いなのですか。

無力な私はもう、いらない子なのですか。



それならいっそ



「ぅ・・別れを・・・告げて、ください・・・っ」



















「・・・









「!」


















突然の声にビクッと振り返れば、音もなく、部屋のドアの前に申し訳なさそうに佇む髑髏の姿があった。

暗い部屋に差し込む微かな月明かりが彼女の白い顔を半分ほど照らし出していた。



「・・・髑髏。・・・何?私に、何か用?」



スンッと鼻を啜り、睨むように髑髏を見やる。

涙が頬に筋を作っているようで、スースーと冷たかったが少しの意地で拭いはしなかった。

本当はこんな姿だって見られたくはない。



特に髑髏には。




「あの・・・、」


「何。用がないのなら自室に帰って。私は貴女の顔なんて見たくもない」


「!・・・・・・



シュンッと沈んだ、小さな声が私の名を呟いた。

項垂れて下がった髑髏の視線。

私は威嚇するように、視線を逸らさず睨むことをやめない。


たとえ貴女と骸様が繋がっていたとしても、貴女は髑髏・・・いや、凪。

骸様ではないの。

私は貴女なんて大嫌い。



「・・・だけど・・・あの、骸様が」


「!!聞きたくないっ!!いやっ、もう骸様の話を貴女から聞かせないで!!」



狂ったように叫びながら両手で耳をふさいだ。

あぁ、なんて私はみじめなんだろう。

聞きたくない聞きたくない聞きたくない。


私の知らない骸様の話をしないで。



骸様を、取らないで。




・・・」


「いやっ!!いや!!嫌い嫌い嫌い髑髏も骸様も大っ嫌い・・!!」





「もう、放っておいて、私は死にたいっ、消えたい、忘れたい!!嫌なのっ、嫌い嫌い嫌い・・・!!!」



























































「・・・・っ!」



































夢、ですか。





幻、ですか。







幻覚を、見せているのですか。













それとも、



















「ぇ・・・?ど、髑・・・っ、・・・・骸・・様・・・?」







「・・・はい」

















聞き間違うことのない低い声。


髑髏の立っていた場所には、請い望んだ姿があって。

髑髏の顔を照らし出していた月明かりは、薄っすらと笑みを浮かべた口元だけを照らしている。








呼吸の、仕方を忘れた。


まばたきの、仕方を忘れた。



なのに視界がゆらりと霞む。



それが許せなくて、怖くて、怖くて。

消えないでと願いながら、素早く手の甲で目元を拭った。










「嫌だ・・嘘っ、消えないで・・・むくろ、さま・・骸さ、ま・・!!」







上ずった声は何度も何度も彼の名を呼ぶ。

消えないで消えないで、と心が叫ぶ。








「おいで、








静かに響いた、愛しい声。

広げた、長い両腕。

私の名を、貴方はまだ呼んでくれている。







意識するよりも早く、私の身体は動き出して、

床の冷たさも分からないまま駆けて、

こんなに短い距離さえも、長く長く感じた。






「・・・骸様!!」





精一杯伸ばした腕で骸様に抱きついた。

ふわりと、懐かしく愛しい香りが私の鼻腔と心をくすぐる。





・・・寂しい思いをさせてしまいましたね」




ジンっと響く声が、頭の中を反響して言葉の意味を理解するのが少し遅れた。



「・・・泣いて、いるのですか」



骸様の右手が優しく私の頭を撫でた。

壊れ物を扱うように、気を使った優しい手つき。


言葉がつまって、何も言えないままの私はただただ骸様にしがみ付く。



「僕は残酷な男です。をこんなにも傷つけ、なみだを流させている」



私の頭を撫でる手は止めず、骸様は続けた。



「嫌われて、当然です。僕はを幸せにできない」



どこか感情を殺した骸の声に、ドクンっと心臓が早鳴る。



――突き放される、骸様が離れていってしまう。


頭にそう、浮かんだ。



「・・・骸、様っ」



掠れ上ずった声で名前を呼び、少し体を離し骸様を見上げた。

困ったように下げた眉と、月明かりを反射する瞳。



「僕はを手放さなければならない。・・・これ以上を傷つけるわけにはいきません」


「!!」



声が、出なかった。

別れが、・・・どうせならいっそ、と願った最悪の結末が、目の前をちらつく。


優しく笑んでくれた骸様の瞳は酷く寂しそうで、次の瞬間には眉間にクッと皺を寄せていた。



「・・・はぁ、駄目ですね・・・!

 別れを言わなければいけないのに、覚悟はしてきたのに・・・、僕は・・を離したくない。

 本当は強く強く抱きしめて、君が好きだと言いたい。



 ・・・嫌いだなんて、言わせたくないんです」



情けないですね、と溜息をついた骸様が酷く儚く見えて。

溢れ出す涙を、ぐっと耐えながら骸様の頬に手を伸ばした。



「骸様は、私を必要と・・してくれますか?」


「・・・勿論です、以外必要なものなんてありません」


「私を、また抱きしめて・・くれますか?」


「脱獄したら迷わずをこの胸に抱きしめてみせますよ」


「私を、離さないでください」



驚いたように丸くなった骸様の瞳を、私は見つめ返す。

もう、大丈夫。

その言葉が聞けたのなら、私は、私は。



「待っています、骸様」


・・・」



そっと触れた唇はあたたかくて、優しくて。

強く強く抱きしめてくれた腕は、私をしっかりと支えてくれた。


久しぶりに感じる幸せに、胸が心地よく熱くなる。




「愛しています・・・いつか本当の幸せを、に・・」




色の違う双眸がゆっくりと閉じると、がくんと骸様の体が前方に倒れた。




「骸様っ!?」



肩にかかる重みはあまりに軽く、香る甘い女の子らしい香り。

・・・髑髏。


そこには骸様ではなく、スースーと寝息をたてる髑髏がいた。

ぐったりと力が抜けているが、疲れて眠っているだけのようだ。


・・・あなたは骸様じゃない、特別なあなたが羨ましい。

だけど、だけど・・・あなたも同じ。

骸様を、大切に思っているんだね・・・。





「・・・・・ありがとう」







































暗闇に飲まれた空は、夜が明けることをまだ知らない。



か細くも眩い月明かりを頼りに、


見えぬ不安を飲み込みながら、


私はまだ歩いていこうと思います。




この道の先に、この夜の明けた先に、


あなたが待っていることを・・・信じています。









































ただでさえ、空はくなかった  




消え
ないで、消えないで、私を照らす一筋の希望。
























































「おかえりなさい、・・・骸様!」















2008.01.19