晴れすぎた空は逆にうざったい。

嘘みたいな青い空には、馬鹿にされたような気分になる。



捻くれたあたしはいつだってそう、




もう放っておいてくれればいいのに。
























「あ、だ、お帰りー。・・うししっ今回もド派手にやらかしたみたいじゃん」


「うっさい。あんた程じゃない」



綺麗に清掃された廊下にポタポタと真っ赤な染みを残しながら歩く。

そんなあたしをからかいに来たのか、後ろから気配もなくやってきたベルは面白そうに喉を鳴らした。


どうせ全部返り血だ。

あたしの傷なんて無いに等しい。



「どうかな。んじゃあさ、とオレが戦って比べるってのはどう?よくね?」


「絶対いや。なんであんたなんかに無駄な体力使わなきゃいけないの」


「ひっでー」



次の角を曲がればボスの部屋。

そこまで来ると、ベルはくるりと踵を返し、そんじゃねと笑った。(まぁ常に笑ってるけども)



任務が終わったらボスに報告。

はい、ちびでもわかるお約束。


あたしはトントンとドアを軽くノックすると、返事も待たずにドアを開けた。

・・・どうせ待っても返事なんてする奴じゃないから。



「・・・ボス。今回の敵対ファミリーせん滅の任務、滞りなく完了いたしました」


「あぁ」



低く響く、ただ一言。

これを聞くためだけにいちいち報告に来るなんて、何の意味も無い気がするのだけど。

・・なんて思って報告さぼったら、思いっきり右頬を殴られたんだけどね。



「・・それでは、失礼しま」


「その血は、誰のだ」


「・・え?」



唐突なボスの二言目に、あたしの口からは間抜けな声が漏れた。

とたんあの鋭い双眸に睨まれる。



「質問に答えやがれ。カス女が」


「あ、す・・すみません。全て返り血、敵のです・・・・・たぶん」


「ふん。・・・なら、んな汚ねぇコートで俺の部屋に来んじゃねぇ」



ギシッと音を立てて、椅子から立ち上がりあたしに近づいてくるボス。

あ、やば、殴られる。


まぁ逃げられないのはわかってるから抵抗なんて馬鹿なことはしないけど。



「脱げ」


「うぁ・・!?」



ぐいっと力任せにコート引っ張られ、腕が外れるかと思った。

うまく腕を抜き、ボスに剥ぎ取られるように脱いだコートはばさりと床に投げ捨てられた。

黒と赤がグラデーションした、なんとも不気味な塊だ。



「・・・てめぇ、返り血だけじゃねぇじゃねぇか」


「え?・・・あ、ホントだ」



シャツの腹部に広がる赤黒い染み。

乾いているところを見ると最初の方に受けた傷だろう。

・・・そんなこと忘れてた。



「こんなのすぐ治ります。傷の内のも入りませ・・・・つっ!?」



ピリッとした痛みが身体を走る。

ボスの手が傷口の上をもろに撫でたからだ。



「ボ・・ボス!?何するんですか!?」


「脳みその少ねぇ馬鹿女に、嘘はいけねぇってことを教えてやんだよ」



じわりと鮮やかな血がまた広がる。

・・・あぁ、傷口開いちゃったじゃないか。



「や、やめてください。・・次からは・・・ボ・・ボス!?」


「あぁ?」



何をするかと思えば、ボスはそのままシャツを捲くり上げた。

シャツを押さえれば睨まれ、凄まれ、どうしろっていうんだ。



「黙ってろ」


「・・・ひっ!?っつぅ・・・!!」



瞬間傷口に触れる生暖かい舌。

ピリッとしたえぐられるような強い痛みに、思い切り顔をしかめた。



「・・・っボ、ボス・・・やめ・・痛っ!」


「あ?軽い傷なんだろ?こんぐらい我慢しろ」


「そ・・・んな」



無茶な。

ぺろぺろなんて可愛い擬音で表現できる程度でない、傷を深めるような攻撃的なそれ。

痛みに我慢できず、ボスの肩にかけた上着をギュウッと力任せに握った。



「・・・っ・・・ぅ」



あぁ任務より、こっちの方が全然キツイ。




「・・・・おい


「・・・ぅ、・・はい」


「次から怪我はいっさいするな」


「そんなっ!!・・・・はい」




そんな無茶な。

本日二度目の言葉を飲み込み、小さく返事をする。


そこでやっとボスは顔を上げ、あたしよりも高い位置から威圧的に見下ろした。

口元が赤いのは・・・あたしの血か・・・。




「・・・・。そ・・・それではもう失礼します」




早くこの場を立ち去りたい一心で、踵を返す。

こんなことならベルとまだしゃべってればよかった。




「おい」


「いっ・・!?」



半分開けたドアから一歩踏み出した瞬間、グイッと思い切り引かれた後ろ髪。

頭から後ろにつんのめるように逆戻り。




「ボス!!いい加減に・・・っ!!」




あぁ、遂にボスに噛み付かれ・・・・いやキスされた。

でも噛み付くと表現した方が絶対合っているような乱暴なキス。


な、なんでボスにキスまでされなきゃいけないんだ!?




「っ・・ん・・・・はぁっ!!」


「馬鹿女が。口の中まで切ってるじゃねぇか」


「っ!・・も、痛い!!痛い!!何なの、離せってんだよ!!」












幸か不幸かあたしはそこで一発殴られ開放された。

(殴るなら最初から殴って終わりにしろっての!)




























え?何?


いったいあれはなんなの?


あたしに対する嫌がらせ?




ルッスーリアが言うには、あれはボスの愛情なんだって。




あたしは捻くれてるからわからないのかな?


痛めつけるのが、ボスの愛情?





















私がボスに愛されてる・・・?












































そう思うと、吐き気がした






あれが愛情?

ふざけるな。