目覚めは最悪。





昨日の不可解な出来事はやはり私の眠りを妨げた。

だいたいそういう時って朝になってから眠気が来るもので・・・、今日一日が心配・・・。




気持ちをスッキリさせようと顔をバシャバシャと一気に洗い、自然と鏡に映る自分を見つめた。




「・・・・・・っ!?」



その瞬間、

ツキンと小さく痛んだ右眼。



まるで昨日、あの人と視線があった時のように・・・。





「・・・な・・に、」




何故だか、急に、切なくなり、右眼をギュッと抑えて息を整えた。




「っ・・、何・・なの?ねぇ、どうしたっていうの・・・?」






今は一番わからない自分自身に、鏡に映る私に、問い掛ける。



鏡に映る私は困ったように眉を下げていて、痛む右眼だけは不自然に輝いて見えた。

















私の片方だけ、
































青い瞳が。











































そして、もう一度、君と! P7





































「おはよう、ちゃん」


「ツナ!おはよう!」



教室まで続く廊下を一人歩いていると、後ろからパタパタと足音が近付き、次いで聞き慣れた声が響いた。

急いだのか少し息切れをしているツナを気遣えば、困ったようなあの笑顔で大丈夫だよ、と返された。



「それより・・・ちゃんこそ、昨日は大丈夫だった・・?」


「え!?・・うん!全然大丈夫だよ!はしゃぎすぎちゃったかな、貧血でも起こしたみたい」


「・・・・。・・そっか」





―ドキッ





「・・・それなら、よかった!」


「うん・・!」




見逃さなかった。


一瞬だけ、ツナが怪訝そうに心配そうにした、その表情を・・・。


























「お!、ツナ、おっす!」


「おはようございます、十代目!・・・ついでにも」


「おはよ!山本、獄寺君」


「おはよ、武!・・・あ、どこの不良かと思ったら隼人だったんだー、おはよ」


「んだと!?」



教室のドアを開ければ、居心地のいい同年代に囲まれた空間。

本当は終わりにするはずだったスクールライフ。



ありがとう、ボス。

私やっぱりまだ、ここにいたかったみたい。




ちゃんおはよ!」


「おはよ。今日はゆっくりなんだね」


「京子、ハナ!おはよ!」



女子の中で特に仲のいい京子とハナに挨拶を交わし、



「そういえば昨日、京子と美味しいケーキ屋行ったんだ」


ちゃんも誘って今度は3人で行こうって話してたの!行こう?」


「わぁ・・・!行きたい!」


「あはは、いい食いつき!」








そしてそして・・・嵐の前の静けさとでも言える時間が流れだしたのだった。











































「ほんっとーにゴメン!!皆まで付き合わせちゃって」




パタンと職員室のドアを閉めた途端、ツナは両手を合わせて頭を思い切り下げた。

先程まで、今日提出の課題が終わっていなかったツナを皆で手伝っていたのだった。


・・・手伝っていたのは獄寺だけで、残り二人は黒板に落書きをしていたのだが。



「これくらい全然平気っすよ!十代目のお役に立てて嬉しいっす」


「そうそう!もう終わったんだし、ぱぁっと遊ぼう、ね!」


「お、!それいいな!俺んち来るか?」



ツナの顔を上げさせるために腕をグイッと掴んで、ニコニコと笑っているの頭を、わしわしと撫でる山本。



「テメーらは遊んでただけだろが!」


「で、でも待っててくれただけで、嬉しいし!」



フンっと、獄寺はの頭を撫でていた山本の手を振り払った。

そんな意外な獄寺の行動に、山本が「お?」と小さく言葉を漏らしたが、ツナとはふざけあっていて気付くことはなかった。



「ほらツナもこう言ってるわけだし!今日は武の家かぁ・・・えへへ、武パパに会える!」


「親父もが来るの楽しみにしてんぜ」


「ホント!?」







夕暮れの赤い日差しが、等間隔に並ぶ窓から降り注ぐ長い廊下。


放課後になってから随分時間も経っているそこには、昼間と打って変わって人気がなく、4人の笑い声と足音だけが響いていた。








「よーし!じゃあ教室まで競争しよ!」



は楽しそうに突然言い出すと、さっとスタートの構えをした。



「よっしゃ!ならビリは一位にジュース奢りな!」



笑いながらの隣りでさっと同じように山本も構える。



「えぇえ!?勝てる自信ないー―!!」


「おーし、120円ちゃんと準備しとけよ野球馬鹿!」



ツナの情けない声の後に獄寺が叫び、



「あっはは!よし、いくよー・・・?よーい・・・・・どん!」



の声と同時に四人分の先ほどよりも騒がしい足音が響いたのだった。

・・・そして、ツナの弱音も。





































―ガララッ!







「ゆーうしょーう!」



教室のドアを勢いよく開け、はぁはぁと上がった呼吸を肩で整えた。


思いがけない一位に少しだけ優越感に浸り、教室に踏み込む。












―パチパチパチ・・・








「!?」








「・・・おめでとうございます」

























―ドクンッ



















「・・・あ・・、」







一人分の渇いた拍手の音と共に響いた昨日の“あの人”の声。


差し込む夕日をバックに、優美に窓に腰掛け、その人は人当たりよく微笑んでいた。





荒打つ鼓動と、なんでどうして・・・と浮かぶ様々な疑問。





「な、なんで・・あなたが、ここに・・・」




詰まったように出なくなっていた声を絞り出せば、発せたのは上擦った掠れた声だった。


そして早まる鼓動と同調するように疼き、痛みだす右眼。






「なんで、ですか?」





あの人の声が優しく響く。

そのたび身体の異変とは裏腹に切ないような・・・妙な気持ちが広がっていった。





「クフフ・・・、簡単なことですよ」





変わった笑い声を響かせ、綺麗に笑み、そして・・・すっと右手を差し出した。

その人から、その動作から、・・・目が、離せない。






「あなたを・・・迎えに来たんです」





「私っ・・を・・・?」






いつの間にか、私はあの人の目の前まで歩み寄っていた。


逆光で暗く見えた顔は、今ははっきりと見てとれる。







「はい。僕はあなたを奪い返しに来たのですよ」



「・・奪い返・・す?・・・何のこと?・・・・・あなたは誰、なの?」



「・・!」




そう質問した瞬間、その人は微かに眉間に皺を寄せた。

空気が冷たくなったような錯覚。





「・・覚えて、いない・・・?」



「・・・・・・・・・は、い」





怪訝そうで切なそうな、その表情に、軽く思案してから遠慮がちに返答した。



だが、本当に記憶にはなかった。


ない、はずなのだ。





「・・・はぁ・・。そう、ですか・・・。覚えていない・・・」


「・・・・・・すみま、せん」




溜め息の後の呟くような声に、私は伏し目がちに謝ってから、あの・・・と切り出した。




「なんですか?」


「あの・・・本当に、ごめんなさい。・・・あなたは誰なんですか?私を知っている?」


「クフ・・・クフフ。気に・・なりますか?」




今度は嬉しそうに笑い声を漏らしたその人に、私は素直に頷いた。













その瞬間












「・・・わっ、ぁ!?」





ひょいとさっきまではあの人が腰掛けていた窓に乗せられた。

だいぶ高い位地にあるため足は浮き、目線はあの人と同じになる。






「な、何す・・っ」






「僕は六道骸といいます」






「! ・・・むく、ろ・・?」







頭のどこか遠くで―パンッ―と何かが弾けるような音がした。


顔を少ししかめる。








「そうです。・・・そしてあなたは、」





















―トンッ





「え」








突然、


目の前の六道骸に体を軽く押された。



グラリと傾く視界。









 ここは階上。



 高い、ところ。



 高イ・・・トコロ。











「――っ!!・・ぃ、いやぁぁああ!!」












「大丈夫ですよ」




「ぁあ!!・・ぅ、っはぁ・・はっ・・ぁ・・」




バランスを崩して、背から窓の外へ身を乗り出した私を、六道骸の腕はしっかりと支えていた。

それでも私は腕を伸ばし、必死に相手の首に腕を絡ませる。





「・・・な、・・にす、る・・っの!?」





いきなりの出来事とあまりのショックに零れそうになった涙を必死に押さえ込み、六道骸を睨んだ。

至近距離の六道骸の顔は至極綺麗で、その色の違う瞳は、私をうっとりと見つめているように見えた。




・・・何なんだ、この人。






「あなたは・・・。高所恐怖は未だに治っていないんですね。・・・むしろ酷くなっていますか」



「・・!?・・・なんで、それを」



「知っていますよ、あなたのことなら。・・・否、過去のあなたなら」








僅かの人しか知らない、私の弱点。


記憶にない人が知っているなんて・・・ありえない。









グイッとそのまま抱き起こされ、微かに震える身体を抱きしめられた。







「少々度が過ぎてしまいました。泣かないでください・・・






―パンッ







「!」







また弾ける・・・頭の中に浮かぶ堅固で儚いシャボン玉。


それは六道骸の言葉に・・・いや、存在に揺り動かされる。




抱きしめられたその腕に、香りに、声に・・・促され共鳴するかのように、先程とはどこか違う涙が頬を伝った。




・・・なんでだろう気持ちが落ち着いていく。










「・・六道・・骸・・・。あなたは、誰?・・・私、おかしい・・わからない・・・っ」








涙に濡れた声に、六道骸は優しく私の身体を離した。








「・・・。教えますよ、全てを。あなたの本当の・・・過去を」



「本当の、過去・・・?」



「えぇ」






いつの間にか、夕日は姿を消していて


辺りには静かな夜が近付いていた。


少し暗くなった教室は、



私の知らない場所のようだった。












六道骸はそっと私の額に口づけると、目元を指で優しく拭った。


指先には黒のカラーコンタクト。


さっき泣いた時に外れてしまったらしい。






私の右眼は、元来の蒼色に輝く。






「やはり、間違いはなかった。やっと見つけましたよ・・・・・僕の、





六道骸は再度右の瞼にキスを落とすと、強く私を抱きすくめた。


初対面に近い人のこんな行動、拒絶をするのが当たり前かもしれないのに・・・私はされるがままになっていた。






嫌じゃ、なかった。


・・・安心した。









「・・・っ、そろそろ時間ですね。・・・、黒曜センターに来て下さい。全てはそこでお話しましょう」









フワッと軽やかに身を離すと、六道骸は、闇を帯びた窓の外へと身を翻した。


私に様々な蟠りを残したまま・・・。


















―ガララッ!!













!!」


「無事か!?」


「気配、消えてる・・・」



勢いよく開けられた扉の音と共に響いた声。

妙に懐かしく感じてしまった。




「み・・・みんな、・・っおぶ!?」



突然、乱暴に頭を抱き抱えられるように引き寄せられた。

思わず漏れたおかしな声。



「は、隼人・・・!?どしたの!?」


「黙れ馬鹿野郎が!!・・・心配させやがって」


「!・・・・・ごめんね」


「・・・・・・」



隼人は私を抱きしめ、黙ってしまった。



「驚いたぜ?階段上がりきってみたら、後ろにいたはずのは教室に入って行こうとするし、
 なんか知らねぇけど廊下に果てがなくて教室には辿り着けねぇし・・・」


「え?何それ!?」



アハハと苦笑する山本に私は驚きの声を上げた。



「たぶん、あれは幻覚だった。ねぇ・・・ちゃん。誰かに、会わなかった・・・?」


「!!」



眉間に皺を寄せ、ツナは私を心配そうに見つめた。


その問いかけと視線にピクリと体が揺れてしまう。




「・・・?」



隼人が不思議そうに私の顔を覗き込んだのがわかった。



・・・言えばいい、むしろ言うべきだろう。


なのに、なのに



「・・・っ」






・・・言ってはいけない気が、した。





「・・・?」


「・・・ごめん、なんか疲れちゃったみたい。もう・・・帰る、ね」


「おい!?待てよ!」


ちゃん・・・!?」




隼人の腕を抜け出すと、足早に教室を駆け出した。


背中にたくさんの声を受けながら、それでも、




















今は、一人になりたかった。





































私は


ボンゴレファミリーの一幹部。



物心ついた時にはそこにいた。



そして傍にはいつもキャバッローネファミリーボス、ディーノがいたわ。








・・・私は








ねぇ、あなたは誰・・・?





































全ては、優しい、闇の中。




・・・私は、誰なんだろ。
















































な、長かった。
妙に長かった。き、きっと骸マジックですね!
携帯でポチポチ一万文字いきました。ワォ。
久しぶりの更新で張り切っちゃっいましたよ、私!

2007,07,01


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