飛行機も大丈夫。
ジェットコースターも大丈夫。
だってそれはしっかりと安全の保証がされたものだから。
でも、でもね。
駄目なものは駄目なの!
そして、もう一度、君と!P2
「僕の眠りを妨げるなんて・・・何様?」
「え・・・」
学ランを羽織ったその人は、くぁっと一度不機嫌そうに欠伸をしてからスッと流れるような動作で立ち上がった。
「それに見ない顔だね。本当に誰?」
「・・・。2週間くらい前に転校して来たんです、けど」
「ふぅん」
ツカツカとペースも表情も変えず、その人は私の方へと歩み寄ってくる。
「・・・・・・」
私は、
その態度に妙に苛々して、
「!」
・・・キッと相手を睨み付けた。
「・・・あなたこそ誰なの」
この俺様な態度は、誰か(誰かなんて頭の中ではわかっていたけど)を思い出させて私の身体は拒否感と嫌悪感を同時に抱いていた。
「名乗らせておいて、自己紹介はなしなんだ」
いけないと思いつつ両手には自然と力が入り、自分の放つオーラに髪がふわりと逆立った。
「・・・面白いね。君、僕にそんな目ができるんだ」
チャキッと相手が武器・・・トンファーを構えた瞬間、
「っ・・・・いけない」
私は我に変えるように、一瞬で力を抜いてヘラと笑った。
「・・・。僕は雲雀恭弥。・・ねぇさっきのもう一回やってよ」
雲雀恭弥はニヤリと笑いながら、こちらに近づき私との間合いをほとんど零にした。
「無理、です」
私は至近距離で雲雀恭弥を見つめたまま、両手を顔の横に翳し、苦笑いをした。
だって一般人に本気なんて出せるわけないから。
「なんで」
「なんでも」
「・・・なら、咬み殺す」
「!!・・・え!?」
ヒュンッと音を立てて鼻先スレスレをトンファーが掠めた。
素早く一歩後ろに跳ぶように後退すれば、雲雀恭弥はニヤリと面白そうに笑った。
「ワォ」
「ねぇ!!ちょ、待って!!・・・っ」
私のスレスレを飛び交うようにトンファーで攻撃しながら、雲雀恭弥はじりじりと私を追い詰めて来た。
ヒョイヒョイと俊敏に体を動かし、全ての攻撃を綺麗にかわす。
こういう近距離戦は慣れたものだ。
―ガシャンッ
「・・・!?」
音と共に背中に走る衝撃。
それは屋上を囲っている背の高いフェンス。
やばい・・・すっかり忘れてた。
ここ、屋上じゃないか。
―ガチャン・・!!
「っ・・!!」
「観念したら?」
右頬にツゥっと血が流れた。
―ドクン・・・ドクン・・・
目の前の雲雀恭弥よりも、右頬の痛みよりも、今頭の中を支配しているのは・・・
―ガシャッ
「ぁ・・・思いだした。君、噂の転校生だ」
「ぅ・・・噂・・?」
「可愛くて、頭のいい、皆に優しいさん」
「・・・何それ」
「知らない。群れてる草食動物の言ってたことだから」
後ろからフェンス、前から雲雀恭弥に挟まれて逃げることは愚か身動きさえとれなかった。
冷や汗が流れた。
「はぁ、ねぇ・・・わかった。今度・・相手をするから。今は駄目」
「・・・なんで」
「・・・ッ、だから・・・っ!!」
その時、ブワッと吹き上がった突風に私の後髪と雲雀恭弥の前髪が舞い上がった。
背筋がゾクリとして、余裕は一気になくなる。
「ひっ・・・!!」
「!」
「は、離れないで・・!!」
弾かれたようにフェンスから身を離し、がっしりと目の前の人物にしがみつく。
有り得ない、有り得ない・・!!
よくぞ堪えたよ、自分!!
足はガクガクして、瞳孔は嫌に見開き、心臓はバクバクと音を立てていた。
「・・・何、君もしかして・・」
「・・・こっ、高所恐怖症なの!!それも極度の」
雲雀恭弥にがっしりとしがみついたまま、後ろは決して振り向かずに必死に声を絞り出した。
引きはがそうとも攻撃しようともせず動かない雲雀恭弥。
静かになった空間には風の音と、私の息遣いだけが響いていた。
あぁ・・・情けない。
ファミリーの一員たる者、高いところが駄目だなんて、そんな甘ったれたこと言ってるわけにはいかないのに・・・。
しかも攻撃を仕掛けてきた相手に抱き着く始末・・・・・ん?だ・・抱き着く?
「!!・・あ、ぅ・・ごめんなさ!」
きつくきつくしがみついていた腕からぱっと力を抜き、身体を離した。
刹那、
「え!?」
ぐいっと抱き戻された。
私の顔は雲雀恭弥の胸に収まる。
「これは貸しだよ、」
「・・・」
「約束、守らなかったらどうなるか・・・わかってるよね」
「・・・はい」
雲雀恭弥は私を抱きしめたまま言った。
その声は先ほどまでの殺気に満ちたものではなかった。・・・ない、気がした。
「・・・・・ぁ」
「?」
その時、雲雀恭弥のポケットから覗くストラップが目に飛び込んで来た。
シルバーのチェーンに輝くピンクダイヤ。・・・それは紛れも無い私の携帯についているストラップ。
「そ、それ!!」
ポケットを指差す私に雲雀恭弥はあぁ、これ?と携帯を取り出した。
「さっき廊下で拾ったんだ」
「それ、私の!」
「ふぅん。・・・返してほしいの?」
「え!?そ、そりゃ勿論・・・。・・・返してくれないの・・・?」
思わず聞き返した私に雲雀恭弥はニヤリと笑ってから、いいよと言った。
そしてそのまま私の腰を抱いたまま、モタモタと歩く私を屋上の入り口まで引いて行く。
「・・・・・・」
なるべく端を通らずに歩いてくれるのは、気配り・・・なのだろうか。
本当・・・優しいんだか何だかわからない。
「あ、ありがとうございます。雲雀恭弥さん・・・」
「雲雀」
「・・・え?」
「もしくは恭弥。じゃないと返事しないよ、」
「!」
「・・・・聞いてるの?」
「・・・聞いてます」
雲雀は一度ニヒルに笑うと私の携帯のストラップを持ってプラプラとさせた。
「・・・・・」
それをぱしりと掴み、もう一度雲雀を見れば、その目は何か面白い物を見るように輝いていた。
・・・本当この人何なんだ。
「それじゃ、携帯どうもでした」
「うん」
ぺこりとお辞儀をして足早に階段を駆け降りる。
後ろは一度も振り返らず、教室に帰ることだけを考えながら。
「・・・、か」
雲雀は後ろ姿の消えた踊り場の向こうを見つめながら、クスクスと笑った。
これからが楽しみだ、と。
「!」
「あ、ちゃん!」
「おいテメー!!どこ行ってやがったんだ!」
「ごめんごめんー!」
教室に戻れば、やっぱり皆集まっていた。
十代目を待たせちゃった上に、隼人すごい怒ってるし・・・。
「ごめんで済んだら警察いらねぇんだよ!!」
「そ、そんなに怒んないでよ・・・!」
「ハハ。獄寺、びびってんぞ」
いつも通りニコニコしている武の後ろにさっと隠れれば、さらにムッとする隼人。
ツナはそんな3人にオドオドしながら口を開いた。
「そ、そうだ!ちゃん携帯は見つかった?」
「あ!・・・あー・・うん」
ポケットから携帯を取り出しぷらぶらとさせて見せる。
3人は語尾を濁した私に首を傾げた。
「・・なんかあったのか?」
「んー・・いや何でもない。皆ありがとね!このお礼は絶対するから!」
今は雲雀恭弥、・・・雲雀の話はしなくていいと思った。
皆と楽しく、他愛もない一時を過ごしたいと・・・そう心の底からから思ったから。
「・・・さ、帰ろ!今日はツナの家行くんでしょ!」
鞄を肩にかけ、ピョンピョンと跳ねるように教室の出入り口に向かう。
三人はそんなを思わずぼーっと見つめてから、それぞれ顔を見合わせて笑った。
は小さく首をかしげた。
「そうだったな!じゃ、行くかっ」
「けっ、もう十代目に迷惑かけるんじゃねぇぞ!馬鹿」
「まぁまぁ獄寺君・・・。あ、ちゃんうちに来るの初めてだったよね?」
「うん!すごく楽しみ!」
ニコッと笑ってから廊下に出れば、
後ろから来た隼人に頭を小突かれ(いたッ!)、
武にわしゃわしゃと撫でられ(か、髪が!)、
ツナに「行こっか」って微笑まれた。
「・・・・・・・・うん!」
皆、皆、ありがとう。
私はすごく楽しいスクールライフが送れたよ。
ツナの家に行くのはすごく楽しみ。
それは、本当。
でも、でも・・・それで、
私の学校生活は終わりなんだ。
出会いと、幸せと、それから君と・・・
ありがとう、キラキラ輝いた2週間。
長くなってしまった!
まだ内容わかりにくくてすみません;
次回、色々わかって話が進めば、いいな!(ぇ?
2007,03,06
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