こんなにも大切と思えるものができるなんて。


今までの俺は知る由も無かった。



“大切”その言葉の意味さえも、曖昧だったかもしれない。









この日の出会いを、俺は今でも必然だったと信じてるぜ。
























07 − With you

























「・・・・・・」


「・・・・・・」



二人の足音だけが廊下に響き、静けさをより一層際立たせていた。



いくつかの扉の前を通り過ぎ、一つの白い扉の前で歩みを止めるアクセル。

それに合わせても止まる。



「・・・っと、ここがお前の部屋だ。記憶した・・・か?」



アクセルが振り返ると、は黙り込み俯いていた。

フードを被っていない以外は先ほどゼムナスに連れられてきた時と同じように。



「・・・・・・ふぅ。・・・んじゃ、行くからな」



アクセルは一度息を吐くと、の頭をポンポンと軽く叩く。

俯いていた顔を上げる



「!」



・・・やべぇ・・・まじで可愛い。




「じゃ、じゃあ明日はしっかりな!」



何か変な気を起こす前に立ち去ろうとそそくさとその場を歩き出すアクセル。

万が一手でも出したりしたら、他のメンバーにどんな目に遭わされるか・・・わかったもんじゃない。



そんな、去っていくアクセルの後姿にの瞳が静かに揺らいだ。





「・・・っ・・・」












遠く離れていく、さっきまでそこにいた存在。


その存在が、離れていく、触れられなくなる、


また、忘れてしまう?


また、置いていかれる?










―― マタ、一人ボッチニナル・・・? ――











「ぁ・・・っ・・・い、・・・嫌だ・・・行かないで!!」



弾かれた様には歩みを進める後ろ姿に走り出していた。






「うぉ・・・っ!?」



「・・・っ、置いて行かないで・・・!!お願い・・・っ」



後ろからに勢いよく抱きつかれ、少し体勢を崩しながら、アクセルはに振り返った。

ギュウッとアクセルのコートを握り締め、必死に訴えるの必死な声。



「おい・・・?どした・・・」


「ごめんなさいっ・・!もう・・・もう二人共なんて・・・我儘言わないからっ・・・!!」


「おい・・・」


「だからっ、だから・・・一人にしないで!・・・一人ぼっちはもう、」


っ!!」


「・・・ぁっ」



の腕を引き、ギュッと強く抱きしめた。

腕の中のの小さな身体は小刻みに震えていて、それを押さえようと背中を優しく叩いた。


今にも壊れてしまいそうなほど、脆く、儚く感じて。




「・・・・・・大丈夫だから、な?」


「ハァッ、ハッ・・・・・ご、ごめ・・・なさ・・・」



興奮して上がったままの息を、押さえようとしながら、我に返ったは小さく謝罪の言葉を漏らした。

取り乱したことが恥ずかしいのか、抱きしめられていることが恥ずかしいのか、次第に赤くなっていくの顔。

ギュッと握り締められているの手はまだ少し震えていたが、少し・・・安心した。




「・・・俺はここにいるぜ。・・・お前を一人になんてしない」




そして、どうしようもなく、例えようのない“愛しさ”が込み上げた。


・・・俺たちに心なんてないのに。


だけど、偽りなんかじゃない。

本当に思っているんだ。



















「・・・俺が一緒にいてやる」




















そのままを抱き上げ、驚きの声をあげるを抱えながら、これからのものとなる部屋に足を踏み入れた。

想像通りの軽くて柔らかいの身体。


・・・・・・って何考えてんだ、俺は!!







「・・・あの・・・アクセっ・・・ぅわ、ぁ!」





ひょいっとをベッドの上に下ろす。

暗い部屋には月明かりだけが差し込んでいて、殺風景な室内とを照らし出していた。





・・・・・なんだか勿体無いことしてんなぁ・・・俺。


だけど・・・今のに手を出す気なんて毛頭、ない。


傷心に付け込む程俺だって落ちぶれちゃいない。







「・・・ほら寝ろって。疲れてんだろ」


「・・・だけど・・・・・」



ベッドサイドの床に胡坐をかいて座り込むアクセル。

の位置からは背を向けているアクセルの赤い髪が見えた。



「んぁ・・・?俺のことは気にすんな、何もしねぇよ」



振り返ったアクセルが、安心させるようにニッと笑う。



「あ・・・違うの。・・・・・・ずっとそこにいてくれるの・・・?」



ベッドの上に座っているは不安げに首をかしげる。


・・・どうしてこうも可愛いしぐさばっかり・・・。



「あ、あぁ。ここに居てやるよ。だから早く寝・・・」


「こっちに来て。そこじゃ、アクセルが疲れちゃうよ・・・?」


「は・・・?こっち・・・!?」


「うん?」



何時の間に近づいていたのかはアクセルの腕を引いた。

驚いて手を振り払いそうになるが、




「・・・・・・ったく、しょうがねぇな」



今のを拒絶する・・・傷つけることなんて、できなかった。







































「アク・・・セル・・・・あの」


「・・・ん?」



が寝返りを打ち、キシリとベッドが軋んだ。

備え付けのベッドは大きく、二人で寝ても狭いなんてことは全くなかった。



「さっきは・・・ごめんなさい」


「・・・あぁ。気にしてねぇよ」


「・・・・・・。・・・恐、かったんだ。置いていかれちゃう事が・・・」


「・・・・・・」



消えてしまいそうなほど小さな声で、ゆっくりと語りだすの声を聞き漏らすまいと耳を傾け、アクセルはちらりとを盗み見た。



「私・・・親友二人に・・・置いてかれちゃって。あ・・・でも、でもね二人は悪くないの・・・。私が・・・」




――・・・二人は私に手を伸ばしてくれたのに。

――・・・なのに私は。




「・・・私が、いけなかった・・・」





―・・・どちらかを選べなかったから。





「・・・・・・。


「・・・へ・・・っ!?」




突然頬に触れたアクセルの長い指。

何時の間にかこちらに向いていたアクセルの顔。

真剣で、鋭くて、だけど・・・優しい瞳。



「アクセル・・・?」


「なぁ、。泣いて・・・いいんだぜ?」


「!・・・ぇ、な、どうし」


「辛かったんだろ?一人で、淋しかったんだろ?」


「・・・・・・・そん・・な」


「一人で泣いてたのか?抱えて溜めて悩んでたのか?」


「・・・・・・」






「・・・今は、俺がいる。そうだろ?」







胸がドクンと鳴り、緩やかに込み上げてくる熱いもの。

固く結ばれ絡まった糸が、優しく解けていく・・・感覚。



優しい、アクセルの視線。



つっかえていたものが流れ出るように、










「・・・・・・ぅ・・・っ、ぇ・・・」









何かが切れるように、















涙が、溢れ出た。













「・・・ぅ・・・あっ、・・・さ、淋しかった・・・!・・すごく、一人ぼっちで・・・誰も覚えてなくて・・・っ」





頬に触れているアクセルの掌に自分の掌を重ね、涙を流す





「私が、悪いっ・・・でも、信じたいよ、皆はちゃんと・・・いるって・・・・・!もう・・・一人ぼっちは嫌だよ・・・ぉ・・・っ」





そんなを抱きしめ、アクセルはそっと背中に手をまわした。



「・・・俺がいる。それに機関の他の奴らだって。・・・もうは一人じゃねぇ」



は一瞬驚いたように身体を強張らせた後、ゆっくりとアクセルの胸に頬を寄せた。




「・・・っう、うぁああ・・・んっ!!」







久々に感じる、


温もり。


誰かの優しさ。


打ち明けられる、安心。


















・・・ありがとう、アクセル。


























本当の涙と笑顔。

























































「・・・明日、ロクサスに謝らなきゃ・・・」



アクセルに抱かれながら、うとうととしてきた頃、思い出す先ほどの事。



「んー、よくわかんねぇけど。そう、だな」


「・・・あのね、似てたの。ロクサス」


「?・・・誰にだ?」


「・・・・・ソ、ラ。親友の一人」


「・・・・・・ふぅん」



名前を口にすることを少し躊躇ったのは、まだ傷が癒えていない証拠。

の傷は想像しているよりも深いに違いない。


はっきり言って、その名を聞いても嫌な気分しかしなかった。

をこんなにも傷付けた犯人、と。



「・・・・・・謝って・・・それで・・・話し・・・・て、みた・・・ぃ・・・」



すぅっと眠りに落ちる

そっと顔を覗けば、軽く閉じられた瞳に、薄く開かれた唇。

すぅすぅと聞こえる、小さな吐息。



「・・・ふぅ。・・・寝ちまった、か」



まるで安心して眠る子供のようだった。









「・・・・・・にしても、なぁ」



密着したの身体。

ふわふわとした、髪から香る優しい香り。

漏れる吐息。





はぁ、と溜息をつき、

いいのか悪いのかわからない生殺し状態のアクセルは

せめてもの堪能!とを抱きしめて眠りについたのだった。











































お前を一人になんか、絶対しねぇ。




お前をこんな風に泣かせなんて、絶対しねぇ。




淋しいときは俺が居て、




泣きたい時は抱きしめてやる。








ずっと・・・ずっと。









あぁ、もう俺は



こんなにもが愛しいみてぇだ。