突然聞こえたその低い声と気配もなく現れたその姿に、ビクリと顔を上げた。







長身に纏う漆黒のコート


揺れる銀色の長い髪


切れ長で夕色の瞳





バックに広がる見慣れた風景に、これでもかという程あっていなかった。


だって、私の日常にこんな人存在していなかったから。



















02 − の旅立ち




















「泣いているのか」








その人は無表情のまま、淡々とした口調で繰り返した。


全てを見透かすような瞳を、微塵も私から離さずに。








「泣いてなんか・・・ない」








グシッと手の甲で両目を擦り、私は瞳を逸らす。


自分でも何故意地を張ったのかわからなかったけど。










「淋しい、のか?」










心にもないように低い温度の声。


まるで・・・自問自答をしているような、そんな錯覚に陥る。













「淋しくなんかッ・・・・・」












長身の男をキッと睨み上げ、





・・・すぐに俯いた。

















―“ない”わけない。






















淋しい。



今の私にはその言葉がよく似合っていて、たぶんそれしか見えていない。



会いたい。


会いたい。


会いた・・・
















「ソラとリク・・・カイリに会いたいか?」











「・・・・・えっ?」












心を読まれたようなそんな絶妙なタイミングの言葉に、今度はしっかりと目の前の男と視線を合わせた。







皆を・・・知ってる?


忘れていない?








「み・・・皆を知ってるの!?」




叫ぶ様になった声は、少しだけ掠れ震えていた。





「あぁ・・勿論」





私の目は大きく開いた。






・・・あの日々は夢なんかじゃなかった。


ちゃんと存在していて、


ソラもリクもカイリも、存在していて・・・!!













男が私を一層見据えたのがわかった。




・・視線が、逸らせなくなる。
















「私と・・・来るか」










「!」










スッと差し延べられた手は、


あの忌々しい日を蘇らせる鍵。



















あなたは誰?




何を知ってる?




私をどこに連れて行く?







そんなことは全て二の次だった。









皆はどこ?





貴方は・・・知っているんだね?



























―ザザン・・・











波の音が聞こえた。







変わらない・・・心地よいその響き。











いつか




いつか、あの日々が帰ってくる、その時まで




決して変わらないでいて。
































私はその人の手を掴んだ













「・・・連れて行って」

































私達は変わってしまうから