夢を見た。
ツナにすごく似ている人が私に向かって手を伸ばして、微笑むの。
だけど、ツナじゃない。
髪色は明るくて、落ち着いた雰囲気と、大人な顔つき。
・・・年齢もきっと上だ。
「」
その人の唇から、するりとごく自然に私の名前が発せられた。
澄んだ声は、エコーをかけたみたいに私の頭の中で反響し、意識は全て目の前の人に持っていかれる。
「貴方は、だれ・・・?」
私は声を発したはずなのに、その音は自分の耳に届かない。
口をパクパクと動かした感覚だけが脳に伝わる。
「・・・さぁ、誰かな」
それなのに、目の前の人に私の声は届いたようで、優しく目を細めた彼はおどけてそんな回答をする。
正体を教える気は、ないようだ。
普段は訝しむことなのに、今は別段気にならなかった。
おかしな話だけど、なぜだか私はその人を知っている気がしたから。
「おかしいよね。俺は今初めて君に会ったのに、・・・君を知っているんだ」
「私を、知ってる・・・?」
「君は十代目・・・綱吉の友達、ボンゴレファミリーだろ?」
私は頷き、どうして彼は私のことがわかるのに私は彼のことがわからないのかな、と少し疑問に思った。
「それならやっぱり、おかしいな」
「何がおかしいんですか・・・?」
「・・・・・・俺は生まれる時代を間違えてしまったみたいなんだ」
「生まれる、時代・・・?」
彼は寂しそうな微笑みを浮かべ、夕色の瞳に私を映す。
頬へと触れた彼の右手はあたたかくて、私はその上から自分の手を重ねた。
「それともが間違えたのかな」
「私が?」
「そうだよ、遅すぎる・・・。俺はもうここにはいないのだから」
「・・・え?」
彼の真っ白な背景が光を浴びたように明るみ始め、眩しさに目を細めた。
影になった彼の表情は優しくて、切ない。
「愛しいんだ、君が。どうしようもなく、ね」
言葉を理解する前に、視界は奪われ、唇には柔らかいものが重なった。
あたたかくて、優しくて・・・、なのにとても儚く感じた。
「・・・っ・・・は、・・・ぅ」
唇を割って入り込んだ舌にピクリと体を強張らせるが、優しく溶け合うようなその行為に次第に力が抜けていく。
苦しい、苦しい。
呼吸じゃない。
胸が、苦しい・・・。
「・・・ん・・・プリー・・・モ・・・」
「!」
零れ落ちたような声に目を見開いた彼は、すぐに優しい微笑に戻り唇を離した。
乱れた呼吸を整えつつも、早鳴る胸を押さえることはできなそうだ。
「プリーモ・・・なんですね・・・」
「、・・・知っていたの?」
「いいえ。ツナから超直感がうつったかな」
私の言葉に、プリーモはうつるもんじゃないだろ、と笑いながら言った。
綺麗な夕色の瞳が嬉しそうに細められる。
それは思わず魅入ってしまうほど、綺麗な色彩だった。
でも、それが最後。
真っ白な光は強すぎる閃光へと変わっていて、プリーモの表情は愚か姿さえ見えなくなってしまった。
頬に触れている手だけが、その存在を私に伝えている。
「プリーモ・・・!」
「・・・・・・さよならだね、」
プリーモの落ち着いた声が光の向こうから聞こえる。
眩しすぎて、プリーモの姿を探そうにも前すら見ていることができなかった。
「綱吉を頼んだよ、優しい子だから」
「待ってください・・・!」
「次は同じ時代に生まれよう、ね」
「・・・プリーモ・・・!」
「愛しているよ、」
「・・・ちゃんっ・・・・・・ちゃん!」
「・・・・・ん・・・、プリー・・・モ・・・・・・んん・・・?」
「ちゃん起きて、もう放課後だよ?」
「お前はいつまで寝てんだよ!!十代目を待たせんな!」
「ハハ、俺もさっき起きたんだけどな!」
目の前には夕色に染まった教室と、三人の友達。
自分がどこにいるのか一瞬分からなくなって、ぼおっと目の前のツナの顔を見つめた。
「・・・プリーモ・・・」
「え、何?」
夢の中で聞いた声より、高いツナの声が耳に入ると、パチンと我に返った。
ガバッと勢いよく起き上がって、数回瞬きをする。
「やっと起きたか」
「寝ぼけてんのなー」
「ご、ごめん・・・!」
隼人と武の声に振り返って謝り、ツナにも起こしてくれてありがとうと笑った。
三人は呆れたように優しく笑った。
「んじゃ帰るか!」
「そうだね!・・・あ、帰ったらリボーンが特訓するぞ、とか言ってたんだー・・・嫌だぁぁ」
「頑張ってください、十代目!俺、手伝いに行きましょうか!?」
「い、いいよいいよ!!」
「ハハ、坊主のお守りも大変だな!」
教室から廊下へと歩き出す三人の会話を聞きながら、ぐいーっと両腕を伸ばし、髪の毛を手櫛で整えた。
どうやら鞄は誰かが持っていってくれたらしく、私は廊下へと出た三人の後ろ姿を追いかけた。
「・・・・・わぁ」
振り返った教室は、息を呑むほど綺麗な夕色に染まっていた。
それは夢の中で見た誰かの瞳の色にそっくりで、一瞬記憶をめぐらせる。
「・・・・・・駄目だ、思い出せない」
頬に触れていた手のぬくもりは思い出せるのに、顔は靄がかかったように霞んでわからない。
切なく胸を締め付けられる意味も、もう分からなかった。
「ちゃーん!どうしたの?」
「鞄は俺が持ってるぜー!」
「ぁ、ごめーん!!今行く・・・・・・!」
教室から廊下へ視線を送る一瞬、夕焼けを背に誰かがクスリと笑っているように見えた。
急いで視線を戻したその時にはもう、そこには誰もいない静かな教室だけが広がっている。
「・・・・?」
私は再度三人の元へ駆け出した。
誰かに十代目・・・ツナを頼むと言われたのを思い出したから。
大空は夕色を、深い紺色へと変えていった。
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