別に何も望んでないよ?

ただ一緒にいたい、それだけなんだけど。

それは無理なのかな?














タバコの苦味とクリームの甘味。最悪のコンディション。


















いつも通り、私は万屋でゴロゴロとしていた。

ソファの上でジャンプを読んでいる銀ちゃんの近くで。

いつもの事。

のんびりした日常。


なのに、今日は珍しくお客が来たのです。





「真選組だ。邪魔する」


そう言って煙草を銜えて入ってきたのはトシ。


「あ、珍しい。別に真選組とか言わなくてもいいよ?トシは友達なんだから」


面倒くさがりな銀ちゃんが玄関に出向くはずもないので、私がいつも客の出迎え。

ま、客なんてほとんど来ないんだけどね。


「・・礼儀だ、礼儀」


そう言いながら、トシは家の中に入っていく。

私もその後についていき、まだジャンプを読んでいる銀ちゃんを見下ろした。


「銀ちゃん?トシ、来たよ?」


「・・・あぁ」


たぶん気づいていただろう、銀ちゃんは生返事。

まぁ、いつものこと。


「あれ?トシ、今日、総悟は一緒じゃないの?・・・珍しい」


そう今日は総悟がいない。

いつもここに来るときは一緒にいる二人が揃っていないのはなんだか違和感がある。


「ん?・・あぁ・・後から来る」


「・・?」


銀ちゃんと向かいのソファに座りながら言うトシはなんだかよそよそしい。

なんというか、いつもと違う。

・・・銀ちゃんもなんだか変。

ジャンプを読みっぱなしってところはいつもと一緒だけど、トシに憎まれ口の一つも言わない。


「・・・・あ、私ちょっと買い物行って来るね?」


なんとなくこの場にいづらい私はそそくさと玄関へ向かう。


、ちょっと待て。話があるから」


玄関を出ようとした瞬間、掴まれた腕。


「・・銀ちゃん・・・?」






















とりあえずソファに座ってみたものの、なんだかやっぱり変な雰囲気。

何も言わない二人が妙に恐い。


「・・・えっと・・何かな?」


私はなるべくこの雰囲気に気づいていないように振る舞い、話し出す。

お願い、何かしゃべってよ気持ち悪い!!


「・・・・えー・・と、な。その・・」


話し出したのは、銀ちゃん。

なんだか挙動不審。


「・・・あー・・土方君からどうぞ」


「あ?!・・・な、お前から言えよ」


なんなんだ、この二人。


「・・・えっと何?教えてよ、気になるじゃん」


私はソファから身を乗り出し、二人に近づく。

とたん、なぜか硬直する二人が余計に怪しい。


「・・・・俺から言う」

そう言ったのはトシだった。


「はぁ?!ざけんな、このヤロォ!!今銀さんが言おうと思って意気込んだってのによ」

そう続けるのは、なぜかきれてる銀ちゃん。


「あぁ?今、先に言えっていたのはおめぇだろ?!」


「そんな昔のこと覚えてないね、銀さんには未来しか見えてねぇんだよ」


「意味わかんねぇ事いってんじゃねぇ、この白髪!!」


「マヨネーズ王子は国に変えれってんだ!!」


「はぁ?!早く言わなきゃ、サディスティック星の王子まで来ちまうんだぞ?!」


「だから銀さん先に言うっていってんだろぉぉお?!」


「・・・ふ、二人とも喧嘩しないで! 二人の言うことちゃんと聞くから!」


今にも乱闘の始まりそうな二人の間に割り込んで、叫ぶ。

目を見開いて止まる、二人。


「ね?ほら大人なんだから喧嘩とかしないの!」


前にいる銀ちゃんを睨めば、銀ちゃんなんだか変なんですけど?

少し赤くなったというか、困ったような表情というか・・。


「・・・・、好きだ!! 上目遣いなんて反則だ!」


「はうぁ?!」


「な、テメ何抱きついてやがる?!離せ!!」


ガバッと銀ちゃんに抱きつかれたと思うと、後ろからはトシが私の腰に手を回してきた。


「な、トシ?! ちょ、どこ触ってんの?!」


「土方君・・テメー、銀さんのに触るんなていい度胸してるなぁ」


「だれが、オメーのだ!!は俺のだ!!」


「はぁ?!」


銀ちゃんに抱きつかれてるせいで、二人の様子が見えない私はワタワタと慌てる。

なんでこんなことになったんだ?!


「な、ちょッ、暴れんな」


「へ?・・きゃあ?!」


「な、おい?!」


ソファとテーブルの狭い隙間で暴れたせいで、案の定三人とも共倒れ。

・・銀ちゃん下敷き。


「・・っ・・やッ、銀ちゃん大丈夫?! ごめんね?!」


私は銀ちゃんの上に乗っかるような体制のまま聞く。

上にはトシがいるから動けない。


「・・・痛い」


そうだろうと思う。

多分頭とか打ったんじゃないかな・・。


「ごめんね・・私のせいだ」

フワフワとした銀ちゃんの白髪を申し訳なくて、撫でる。と、


「ん」

「・・んぅ!?」


近かった銀ちゃんの顔がさらに近づいた。

ふわりと、甘いクリームの味。


「白髪何してんだテメー?!」

「へゃ?!な、何するの?!」

「・・ちゅう?」


「テメー・・」


ガバッと勢い良く銀ちゃんから離れられたと思ったら、見えたのはトシ。

トシに引っ張られて、銀ちゃんの上から下ろされたらしい。

まぁ、それは良かったにしても、なんだか今度はトシに上から押さえられてる。


「な・・トシ?離して・・? 顔恐いよ?!」


見るからに怒ってるし。


「あんな白髪には渡さねぇ・・・」


「トシ・・・? ・・んん?!」


トシの黒髪が顔を撫でる。

トシの唇が自分に触れている。

トシの、舌が・・・。


「・・んぅ?!・・ふぁッ・・・」


初めてのキスは誰だか覚えてない。でもこんなキスはトシが初めてだった。

自分の口内に他の人の舌がある。

煙草の味とおかしな感覚。

・・動けない、逃げられない。

なんで、なんで。


「・・や・・いや、だッ・・よ」


トシの舌がスルッと喉を伝い、下へと下がっていった。

器用に右手で着物を肩からずらし、露になった肌に唇を寄せる。


「・・ッ・・何、で・・トシ、ト・・・シッ!」


「・・・・好きなんだよ。誰にも渡したくねぇ」


「そんな、私は誰のものでも・・・あッ!?」


トシの冷たい手が太ももに触れた。

乱れた着物を恥ずかしく思う暇もなく、トシに触れられている恥ずかしさが込み上げてくる。


「・・やッ・・ぁ・・・・ぎ、銀ちゃんッ・・助け、て」


誰でも良かった。

その場にいてくれて助けてくれる人ならば。

でもそれがトシの気を逆立ててしまったらしい。

手首を掴む力がギュッと強くなったかと思うと、乱暴な口付け。

さっきよりも乱暴に激しく、トシの舌が口内を犯す。


「んぅ!!・・ぁ・・ッ・・ふ・・!!」


クチュッという水音がいやらしくて目をギュッと瞑る。

知らないうちに溜まっていた涙がボロボロと零れた。



「おいで、



声が聞こえた。

優しい、けどどこか焦っているような声。

横目で見れば・・銀ちゃんだった。



「銀さんはそんな乱暴なことしないから・・・。だから銀さんのとこにおいで」


必死の笑顔。

何かをやっと堪えて作ってる、私を安心させようと一生懸命な微笑の銀ちゃん。

銀ちゃんのところに行きたい、と思った。

トシが恐いと、思えたから。



「ふ・・・ぎん・・ちゃッ・・ぁ」


息が苦しい。

それを狙っているのか、トシは構わず唇を離そうとしない。

抑えれた両腕に力を入れても無駄な抵抗だった。


「・・んんぁ・・・く、ぅ・・し・・ぃッ」


私のとトシのが混ざり合った唾液が口の中に溜まる。

口の端からツゥッと垂れたのが分かった。

・・苦しい・・苦しい!


「・・ッく・・・ぅ」


苦しさのあまり唾液を飲み込んだ。

コクッと喉が鳴る。


スッとどこか少し満足げなトシの顔が離れた。

恥ずかしさからか屈辱からか涙が溢れ顔が一層熱くなるのを感じた。


「・・はぁッ・・は・・・ふ、ぅ・・ぇ・・・トシ・・キ、ライ・・・」


自分の顔を隠せない。

だけど涙はボロボロと零れて頬を伝う。

トシはクッと眉間に皺を寄せ、いつにない切ない表情をした。

なんだかこっちまで苦しくなる。

・・・なんで今更。


「・・・離、して・・銀ちゃん、とこ」

「離したくない・・・ごめん、ごめん。 が好きなんだ。・・・・・行くなよ」



強く掴んでいた手首を離し、トシは私をとても優しく抱きしめた。

さっきのことが嘘のように。

子供のように私の胸に顔をうずめ・・泣いているのかと思った。





「・・・キライなんて、言うなよ」





ズキンと胸が痛んだ。

酷いことをされたのは自分なのに、自分が悪い気がしてきた。

もう、許してしまう気がした。


「くどいな、土方。・・・・・おいで」


銀ちゃんはすぐ近くまで来ていて、私に手を差し伸べてくれた。


優しく自分を待ってくれる銀ちゃん。

強引にしか自分の気持ちを表せないトシ。





ここで銀ちゃんの手を取っても、取らなくても、どちらかを失うんだと思った。





どちらかとしか一緒にいられないんだ、と確信した。

皆で一緒にいる方法はない・・・の?


時間が止まったように誰も動かない。

視線は銀ちゃんの手を見つめたまま、瞬きもしていないのに涙が零れた。

少し赤い痕の残った両手はトシに抑えられていた時のまま、動かせなかった。



トシも銀ちゃんも何も言わなかった。







「・・・・いや、だ・・よ。」








小さな小さな搾り出すような声でも、部屋中に響いた。








「・・二人とも、大切・・だから。 失くしたく、ない・・よ」








声が震えているのが自分でわかった。

震えていると悟られたくなかった。




「・・嬉しいよ。好きって言ってもらえたこと・・・でも、私・・わかんないの。

 二人とも好き、だし・・選べない。 それで二人が喧嘩・・・するなら、私は自分が一番、嫌い。

 もう、ここには・・・・来ない」





目を瞑った。

二人のこと、見たくなかった。

怖くて、痛くて、辛かった。






とてつもなく永く感じられた沈黙。












「・・・ごめん」








誰かが私の頭を撫でた。

とても優しく。

・・・銀ちゃんだ。







「・・・恐い思いさせて、悪かった」







ふわっと優しく抱き起こされた。

壊れ物でも扱うように。

・・・トシだ。





そっと瞼を開き、ゆっくりと頭を振って否定した。








何もなかったことにはできない。





でも・・・









「仲良く・・する・・?」







「どうかな」


「なるべくな」



ニヤッと悪戯っぽく二人は笑った。





















まだ一緒にいられることに安心できたんだ。













































タバ苦味クリーム甘味
         
最悪のコンディション。

























――The end that is not over.