いつからかな、こんな気分を味わうようになったのは。
いつからかな、こんなに人を愛せるようになったのは。
きっかりしっかり心臓に狙いを定めて
今日はとてつもなく暇な一日を過ごしてしまった。
それはもう、不必要極まりないほどに。
「あーぁ・・。なんだか勿体無いことしたな」
こんなにいい天気だったんだもん。
いー君とこ遊びに行けばよかったかな・・?
でもいー君今日は大学だって言ってたしね。
「あーぁ。暇だな、どうしよう」
ぐっと背伸びをしてから、ふっと脱力。
すると感じる、背後の気配。
普通では気づけないような・・いや気づくかな・・。
それはそれは鋭い気配。
「・・・・」
歩み進めれば、気配もついてきた。
小走りすれば、気配も走った。
・・・恐ッ
すっと立ち止まって決意する。
何を?
まぁいいや。
「・・・えっと、どちら様ですか・・?」
立ち止まったまま、背後の気配に話しかけた。
気配は何も言わない。
「・・私、付けられるようなことした記憶はないんですけど・・・」
気配が動くのを感じた。
近づいてくる。
逃げようと構えた瞬間には、もう、遅かった。
冷たく突きつけられている鋭気。
喉元に触れる鋭いそれ。
「・・・ッ」
「・・・かははッ おねぇさん面白いね」
耳元でした声は聞き覚えのある声だった。
とたんに力が抜ける。
「・・・ひ、人識かぁぁ・・」
すっと喉元に当てられていた凶器がどいた。
「なんだよ、俺の気配すらわかんなくなっちまったのかよ?」
ナイフを内ポケットにしまいつつ言う零崎人識は面白そうで、でも拗ねている風でもあった。
「そりゃ少しは検討ついてたわよ・・。でも喉にナイフ押し当てられるとは思わないでしょ?」
「かははッ!まったくだな」
零崎は笑った。
私ももちろん笑った。
久しぶりだった、嬉しかった。
大好きな人識に会えて。
二人で近場のベンチに座った後は他愛も無い話しをした。
会えなかった時何をしていたか。
いー君はこんなだったとか。
どうでもよくて、どうでもよくない、楽しい話。
また人識に会えて本当によかった。
「・・で、人識?なんで突然京都に・・?」
そんなあんまり重要でもないような話題を振った瞬間、人識は表情を変えた。
「・・・」
「・・・人識・・?」
目を合わせない、笑わない、笑わない、笑わない。
「その質問だけはして欲しくなかったんだけどな」
目を合わせないままの人識は呟くように言った。
・・なんで・・?
「このまま、その質問こないまま、終わらせられるかなって思ったんだけど、やっぱ無理・・か」
・・なんのこと・・?
「」
人識は目を合わせた、その瞬間何もかもが分かった気がした。
あぁ、そうなんだ。
仕方が無いね。
「何?人識?」
「大好きだぜ」
「私も、大好き。愛してるよ、人識」
私は笑った。
人識は笑わなかった。
「本当は、さっきの質問が来なくても最終的には言わなくちゃいけないことだったんだ。
ま、ちょっと早まっちまったって訳」
私はうんとうなづいた。
人識は続けた。
「だから、だからな。俺にもっと言えよ。の思っていること、全部ぶつけてくれ・・よ」
私はごく当たり前に、人識を抱きしめた。
「・・うん。」
人識は何も言わない。
「・・じゃあ、いー君に楽しかったよ、遊んでくれてありがとうって。
次に出夢君に忘れてもいいけど、できたら忘れないでねって。
あと、私の知り合いには皆に大好きだよって」
人識は何も言わないまま、こくんとうなづいた。
私の腕の中で。
「最後に・・、これ一番重要だよ。
・・・大好きだよ、愛してるよ。誰よりも世界よりも。
ありがとう・・、私は幸せだよ。少し先で待ってるから、何時になってもいいからまた会いに来てねって。
―・・最愛の殺人鬼に 」
人識はうなづきもしなかった。
でも顔をあげて、私に触れるだけのキスをした。
「らしくないな・・!笑って、ほら・・笑って・・よ・・」
泣きたくないのに、涙が零れた。
それはきっと人識にこの世界で会えなくなる事への悲しみだろう。
「・・・ここに、来た理由ってのはな」
人識は感情を抑えた声で話し始めた。
「もうすぐ病気で死ぬある奴を・・・俺の手で殺す、為」
「・・うん」
そっか・・そろそろだったんだね。
私の病気は、もうこんなに近くまで来ていたんだ。
「優しいね、人識。殺人鬼はそんなんじゃ駄目だよ」
私は笑った。
人識は・・・
「・・ねぇ、笑って・・・?人識・・最後は笑顔が見たい」
人識は、
笑った。
寂しそうに辛そうに痛そうに・・悲しそうに
その瞬間小さな、否小さく感じる程度の衝撃が体に走る
こんなに、人を好きになったのなんて初めてだった。
でもそれは人じゃなくて殺人鬼だったんだ。
それでも、大好きだった。
「 あ り が と 、 ね 」
おれの腕の中では力尽きていった。
笑顔のまま、嬉しそうに嬉しそうに嬉しそう、に。
「・・・、・・・!!」
抱きしめたまま、の血に濡れながら、俺は天を仰いだ。
消え入りそうな月だった。
「愛してる・・愛してる・・」
『ねぇ、人識は殺人鬼なんだって?』
「は?」
『いー君から聞いたんだよ』
「ふーん・・で?」
『私を殺してくれないかな・・?』
「・・・」
『私、病気で死んじゃうんだって』
「・・いつ」
『わかんない。だから人識、いー君かあの看護婦さんにでも聞いといて』
「で、なんでだよ?」
『ん? だって最後は愛する人の手でこの世を離れたいなって』
「・・・」
『我がままかな・・。でもね、人識?お願いなんだ』
「・・・その話が本当なら、な」
『ふふ・・! ありがと、大好き!人識!』
「俺だって、大好きだっつーの・・」
きっかり しっかり
心臓に 狙いを 定めて
君を苦しませなかったことが俺の誇りなんだ
― Bad end ... or Happy end ?