愛しています、誰よりも。
愛しています、世界よりも。
愛しています、だから、
絡めた指に赤い糸
我慢の限界と言わんばかりに、目の前の人の腕は一直線に、何の躊躇いも障害もなく私の首に伸びていた。
そして男性特有の骨ばった指は当然私の首に絡まりついている。
反転した視界映る一つの影、それが貴方以外だったら私は発狂したように暴れまわるのだろう。
「・・・なんで、逃げないんだよ・・・」
自分の起こした行動なのに、どこか震える声でそういう彼。
そう、それは俗に言う“彼氏”と呼べる存在。
「・・・じゃあ、なんで武はこんなことするの」
私はまるで余裕のまま、上から見下ろす武を見上げる。
抵抗するでもなく、泣き叫ぶわけでもなく・・・そんな私の反応は武の予想の的を大きく外したものに違いない。
・・・あぁ、ごめん。
武がサディストならば私の反応はなんと貴方の興奮を上げてあげれないものなのだろう。
「・・・脅し。が何処へも行けねぇように」
「ふぅん」
「が、誰のものにもならねぇように」
「・・・ふぅん」
なんと幼稚で滑稽で、それでいて直球すぎる独占欲なのだろう。
お互いじっと視線を交じり合わせたまま逸らさない。
・・・事の発端はそう。私が今朝、武告げたこと。
『イタリアに帰る』
ただ、それだけの一言。
でもその一言は、ただ単に『帰国する』という意味でないことを武は重々承知なのだ。
それを考えに考え、思いつめた結果がこうなのだろう。
「武は・・・私を殺したいの?」
「え?」
淡々と言葉を発せば驚きに瞳を揺るがす武。
あぁ、やっぱり貴方は中学生。
でもね、殺しに対してのあまりにも純粋で普通なその反応は私はとても好きだよ。
「武の手で私の首を絞めるんでしょう?・・・私がイタリアへ帰らないように」
「違う!!俺はがイタリアに帰らねぇように脅すだけで・・っ」
「駄目。それじゃあ私はイタリアに帰るしかない」
否定に声を荒げた武に私は冷静なまま言い放ち、視線を武から窓の外に広がる爽快なほどの青空に移した。
武が動揺の声を漏らしたのが小さく耳に入る。
なんて私は嫌な女なんだろう。
武を誘導してるのは私じゃないか。
「イタリアに帰ればもう、俺とは二度と会えない・・・そう言ったよな?」
「言った」
「はヴァリアー・・・違うか?」
「・・・・・・違く、ない」
「やっぱり、な」
ふぅと溜息をついた武。
黙っていた事実も、きっと周りから聞かされた噂で知っていたのだろう。
たとえ、武は信じていなくとも。
・・・ねぇ、貴方は今、何を思っている?
「武・・・私は、」
「俺はが好きで好きでどうしようもないんだ。離したくない、取られたくない、殺されたくない」
「・・・・・・」
「そう思ってたのは・・俺だけ、なんか・・?」
「っ」
胸が悲鳴をあげたみたいに痛んだ。
私は彼にこんな悲しい顔をさせてしまった。
私は彼にこんなにたくさんの笑顔を貰ってきたのに、こんなにたくさんの幸せを貰ってきたのに。
返せるのはただの不幸か。
「ごめん、ね」
発した声は、脳で考えたどんな言葉をも押しのけて、そう一言だけ言葉をつむいでいた。
一番伝えたいことを一番早く短く、密度の濃い思いを込めたそれは、いとも簡単に部屋の中に消えていった。
「ごめんね武、私は嫌な女だよ、武にそんなことを言って貰える資格なんてない!」
涙を流したら駄目だと思った。
そんな武器、武には使いたくない。
「私はヴァリアーなの、それを武にはずっと黙ってきた!・・・もっとある、私がイタリアへ帰らなければいけない理由」
そこで私は微笑んだ。
最後に、最後に、武の彼女でいられる私を最後に笑顔で綺麗に印象付けたかったから。
「私は・・・ザンザスの元恋人なの」
イタリアへ帰る理由ははヴァリアーに戻るというわけじゃない。
ヴァリアーに戻れるなんて思ってもいないし、戻りたくもない。
だけど、いつか私達が見つかって、武に迷惑をかけるのならば、私はほんの一欠けらの奇跡を夢見てヴァリアー脱退を宣言しに行こうとした。
それが意味することが死だと知っていても。
「・・・違う、俺が聞きたいのはそんなことじゃない」
「・・・え?」
「俺が欲しいのはそんな言葉じゃない!!なぁ、は俺を好きだったか?ほんの一瞬でも愛しいと感じてくれたんか?」
荒いだ声が部屋中に響き、その必死さを伝えるような武の目は怒っているようにさえ見える。
なんで?
なんで?
そんなの決まっているじゃない。
どうしてこんな私の気持ちを考えるの?
情を欲しいと思えるの?
「私は・・・武が好き・・っ、好き。好き、好き!!愛しいに決まってるじゃない!!」
一度言葉に出してしまえば、防波堤なんて簡単に突き破って、武への思いは溢れて溢れて止まらなくなる。
駄目なのに、駄目なのに。
そんなことを言っていたら、本当に、離れられなくなってしまう。
「好き・・・武が好きに決まってる!!離れたくない、離れたくない、一緒にいたいよぉ・・っ!!」
ボロっと大きな一粒の涙が頬伝えば、後から後から止めどなく、それはあふれ出した。
うわぁぁあ!!と子供みたいに大声を上げて泣き出せば、いつのまにか首から離されていた武の両手は私の体を強く強く抱きしめていた。
「・・・それが・・聞きたかったんだ。他のことなんか気になんねぇし。がそこにいて、俺を好きでいてくれるなら、後はなんも関係ねぇの」
「ふぅぅっ・・・ぅっ、ぇ、武っ」
「そんな泣かねぇの。最初はあんなに冷静だったくせに、結局こうなるのなー」
武の声は明るくて、さっきの思いつめた表情はどこへやら、へらりと笑みを浮かべている。
未だに止まらないひっくという泣いた後の喉の鳴りを抑えつつ、私は武の腕をそっと離した。
目線の高さを合わせ、自らの手で武の手を自分の首に絡めた。
そして私は目の前の武の首に指を絡ませる。
「おい、・・・?」
「ねぇ・・武。私が死ぬ前に、武が私を嫌いになる前に・・・私を、殺してね」
武は驚いて目を丸くした後、ふっと優しくそしてどことなく挑発的なあの笑みを浮かべた。
「あぁ、勿論。この世でが愛すのはこの先・・・俺だけ、な」
「武も、ね」
「おう。そんときゃが俺を、殺してくれんだろ?」
「・・・勿論」
絡んだ指はドクンドクンと脈打つ血の流れを、
あなたの生を感じ、
いつでも全てを奪ってしまえる。
愛しています、誰よりも
愛しています、世界よりも
愛しています、だから、
あなたの全てを奪わせて。
(さぁ、誓いを立てよう。深い深い口付けで)
狂愛。どっちも狂愛です。
もっとハードな山本の一方的な攻めにしようかと思ってたんですけど、どこで間違えたのやら。
メンタルちっくな甘い話大好きです。
そして山本は初々しくも狂っていればいい!(ぇ
2007.07.19
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