※注意※
某笑顔動画で人気のカンタレラ(sm2393562)を聴き、爆発した妄想で書いたものです。
ミクレチア(ミク)のポジションを完全にヒロインが奪っていますので、「えぇー」と思う方は読まないでくださいませ。
ヒロインは今回マスターではなく、カイザレ様(KAITO)のもう一人の妹設定です。
了承した上で、どうぞ!
の余す処なく何一つを俺以外の誰にも渡さない、見せない、触れさせない。
お前が笑顔を振りまいた生を受けるもの全てに、俺は狂うほどの醜い嫉妬を抱いてしまうのだからね。
・・・わかっているのかい、?
―― さぁ、時は満ちた ――
今宵、お前にソレを教える時がきたようだ。
「・・・・・・愛しているよ、」
―― たとえこの愛が禁忌だとしても ――
カ ン タ レ ラ
「おはようございます、お兄様」
カフスボタンを留める手を止めたのは、凛と響く女性の声。
既に頭の中ではわかっている声の主を確認するように視線を上げ、優しく微笑んだ。
「おはよう、ミク」
その視線と声を了解の合図としたように、ミクは長いドレスをスルスルと滑らせるようにして室内に歩みを進める。
止めていた手でサッと残りのボタンを留め、メイドから上着を受け取るとメイドはミクにお辞儀をして、部屋を後にした。
「朝食はとったのかい?こんなに早くに部屋にくるなんて珍しいね」
「朝食は先程。・・・それより、お兄様ってばやっぱりお忘れになられているのね」
もう、という呆れたようなミクの声に何のことだと視線を向ける。
今日は何かの記念日か?それとも出掛けの予定でも・・・?
・・・・・・あ。
「・・・そうだった。今日は鏡音のご子息がいらっしゃるんだ」
「ですよ」
頷いてから、ミクは今日の簡単な予定を説明し始める。
午後から鏡音のご子息(確か歳がいくつか下の男女の双子だった気がする)がいらっしゃって夕食をご一緒する、というものだ。
「・・・・・・カイトお兄様ももそっくり。二人して予定をお忘れになるなんて」
「はは、も忘れていたのかい?」
「笑い事じゃないですよ!」
中庭を一望できる窓から外を眺めながら、ミクは本日二度目の「もう」という嘆息を漏らした。
ミクの視線の先を追うように同じ窓に近づき、鮮やかな緑と赤に彩られた中庭をぐるりと見渡す。
そしてすぐに目にとまった、少女と女性の中間といった容姿の女の姿。
「・・・・・・は何を?」
淡いピンク色のドレスを身に纏ったその女・・・は、小柄な体躯の半分が真っ赤な薔薇に埋まっていた。
そして左手いっぱいに薔薇の花束を抱えたそんなの周りを、メイドがおろおろと動き回っている。
メイドに何か宥めるような声をかけているのか、は上機嫌な笑顔を浮かべたまま空いた右手を自分の前にかざし、メイドに静止をかけているようだ。
「お花を準備するんですって」
「花?」
「えぇ。鏡音様との夕食の席に飾るんだって、はりきってましたわ」
「夕食の席に・・・」
広いテーブルの中央、様々な料理に囲まれ置かれた真っ赤な薔薇。
そしてそれを囲むの笑顔が思い浮かんだ。
「・・・・・・」
思わず表情をなくしていたことに、幸いミクは気づかずの姿を目で追いながらフフッと口元に手を当てて笑っていた。
その目は優しい姉の目をしていて、自分の愚かさを突きつけられえているようで居心地が悪い。
「緊張しているのか、楽しみなのか。・・・・・・婚約者との初対面ですものね」
「・・・・・・・・・・あぁ」
婚約者。
“”の婚約者。
息が詰まった。
喉を締め付けられるような圧迫感と、胸を掻き毟りたくなるような嫌悪感。
吐き気を催すその響きに、引きつった表情を無意識に右手で覆い隠していた。
「・・・お兄様?」
いつのまにかこちらへと向いていたミクの視線にハッと右手を離し、いつものように笑った。
「・・・そうだね、のことだから何か失敗をしなければいいんだけどね」
「お兄様ってば!・・・全くには心配性なんですから」
「そうかな」
「そうですよ!」
おかしそうにクスクスと笑いながら、ミクは窓を離れ扉へと向かっていく。
扉を開ける前にこちらへ振り返り、
「それでは、私は予定通り出掛けますから」
と、そちらの予定はまるで重要ではないようにさらりと報告してきた。
そういえばそうだった、と頭の片隅に走り書きしてあったミクの出掛けの予定を思い出し、あぁと頷く。
一拍遅れての気が抜けた返事に、当然ミクは半眼。
「・・・・・・はぁ・・・。なんだか心配です」
「大丈夫大丈夫!ミクの方が心配性なんじゃないか?」
「誰のせいだと思ってるんですか!」
不安そうに眉を寄せるミクに大丈夫だからと微笑み、両手をかざす。
そう。
何も心配はいらないよ。
「・・・ふぅ。では、行ってきますね」
気を取り直すように息をついてから、ミクは凛とした声を残して扉の向こうにドレスを翻した。
しっかりとした妹だ、と感心しながら
「いってらっしゃい、・・・ミク」
扉が閉まるのを待たずに、視線は既に中庭にないもう一人の妹の姿を探していた。
しっかり者の長女とは正反対の、心配の尽きぬ末っ子の次女。
その明るく気取らない性格と愛らしい容姿から、屋敷の者全てに愛される彼女。
勿論自分自身も・・・例外ではない。
もう屋敷の中に戻ったのだろうか。
あの真っ赤な薔薇を花瓶に活けているのだろうか。
・・・・・・婚約者との夕食会のために。
「・・・・・・」
真っ黒な感情が全ての思考を底知れぬ闇色に変えていく。
今日の予定を忘れていたのではない。
むしろその逆とも言えようか。
頭の中から排除しようとすればするほど、今日という日は色濃く刻まれ、言いようのない焦燥感に襲われた。
忘れてしまえばいい、考えなければいい。
今日という日なんて、来なければ。
「馬鹿だな・・・。・・・・・・それでも、今日はきてしまう」
そう。
月日なんてものはいとも簡単に流れ、目前へと迫ってしまう。
曇りも汚れもないガラス窓に右手を沿え、ギッと爪を立てた。
自分の中の抑えた感情がふつふつと音を立てて沸きあがるのを感じながら、細く息を吐き出す。
何を考えているんだ。
やめよう。
「・・・・・・」
「お兄様」と呼ぶ無邪気な声が、今は何よりも自分を縛り付ける鎖となっていた。
この手を、腕を縛りつけ、お前を抱きしめることを許さない“理性”という名の鎖に。
―― 毒薬はまだ、己の持つ毒に怯え
《...Next》
ずっとあたためていたカンタレラ物語。
うっかり長くなってしまいました。
続きます、ごゆるりとお待ちください。
20090119