それはそれは平和な午後。

あたたかい日差しにまどろみながらソファに転がっているこの幸せな一時。

なんていうの木漏れ日?むしろ直射日光?・・・・・・いやいや、屋内にいて木漏れ日って直射日光っておかしいだろこれ?

あぁ・・・あれか。

昨日神楽が「私の垂直飛びの美技に酔いナ!」とか訳のわからんことをやった結果の大穴だろ、あれ。


・・・ふざけるなぁぁぁ、あぁぁ、ねみぃ。




――ガララ




「ただいまぁ〜。銀ちゃん、銀ちゃん!!見てアル!!」

「お前、昼飯までには帰ってこいって言った・・・えぇぇぇえええ?!」

「うるさいなぁ。またお勢さんに怒られ・・・えぇぇぇえええ?!」









第一訓
拾ったものの二割は絶対もらえ!











「おま、お前まじでさ・・・何でも拾ってくるのやめろってあれだけ言ったろ?」

「そうですよ!神楽ちゃんが拾ってくるものは大概危険因子を含んだものなんだから・・・」

「定春、ミンチにしてやるヨロシ」



神楽はビシッと無表情のまま新八を指差し、一見白くてふわふわで可愛いが犬という定義の枠をぶち破るデカさの犬、定春が新八にかぶりつく。

新八、200のダメージ、既に瀕死状態だ!



「イデデデデデデ!!もげる、もげる、マジやめてぇぇぇええ!!」

「眼鏡はちゃんと一緒に埋葬してやるヨ」



なんのこっちゃ、フフンと不敵な笑みを浮かべる神楽。

日常茶飯事の光景を後目に、銀時はひとり神楽の“拾いもの”の横にぴたりと寄り添っている。

ぐったりとソファに寝せられ、長い黒髪に隠れてしまった顔を覗き込もうと髪を分けながら、



「シッ!うるせっ!!神楽の拾いもんが起きちまうだろ」

「って銀ちゃん、私の春子に何してるアルかァァァア!!」



どがぁん!!

人間が人間に向けて何かをしたとは思えないような効果音と共に、神楽は銀時を思い切り“春子”と呼ばれる神楽の拾いものと逆方向に蹴り飛ばした。

まるでスーパーボールのように弾んだ銀時は壁にぶつかってべちゃりと落ちる。

一時の沈黙の後、最初に口を開いたのはつっこみ担当新八。



「オィィィイ!!ちょ、銀さん死んじゃったよ、あれ絶対死んじゃったよ!!」

「私の春子に手を出したのが悪いネ、ざまぁみやがれ天パが」



最強、神楽。

足首をくいくいと動かしながら、真っ黒な言葉を吐く。

どことなく、私やってやったよ!というような誇らしげな表情なのは、もう何も言うまい。


しかし、そこはさすが万屋銀ちゃん。

不死身だ、銀ちゃん。



「んぐふ・・・。へぇ、こいつ春子ってんだ」



片腹を押さえよろけながらも、よっぽど“拾いもの”が気になるのか、銀時はソファに歩み寄っていく。

ゾンビか、ゾンビなのか。



「私がつけたアル」

「あ、銀さん生きてたし。・・・え?ちょ、春子って神楽ちゃんがつけたんですか、意味ない!!
 ・・・ところで銀さんはいったい春子さんに何しようとしたんですか?」

「いやぁ、その、ねぇ。ちゃんと息してるかなぁ〜と思って人工呼吸を、ね?」

「ね?じゃないですよ。接吻しようとしただろ、絶対しようとしてただろ」



新八は銀時をじとりと軽蔑の目で見てからため息まじりに、春子に視線を移す。

なんだってこの人はこうなんだ、神楽ちゃんに半殺しにされても仕方ない。


その時、



「・・・・・・んっ・・・」



春子がモゾリと動き、黒髪がさらりと顔の上から流れ落ちた。

桃色の着物に身を包んだ春子は、驚いたことにこの辺りでは見慣れない美しい顔立ちをしている。

長い睫毛の影を落とした双眸は今だ閉じられたままで、よくこの騒ぎの中・・・と関心した。



「!!・・・やばっ!春子さん、起きちゃうよ!!」


ハッとした新八が小声でそう叫ぶのとほぼ同時に、銀時はササっと春子のもとにしゃがみこんだ。

その素早さ、さながらスリッパを構えたときの黒光りするGのよう。



「・・・銀さん?何やってるんですか?」

「春子ぉ〜。銀さんだよぉ〜。お前の彼氏だぞぉー・・・」


どがぁぁぁああん!!


「めごぉ!!?」

「春子は私のアル!!目覚めた春子は最初に私を見て親だと覚えさせるアル!!
 銀ちゃんみたいな陰毛頭なんか最初に見たらトラウマになってしまうヨ!!!」

「っ・・・神楽・・・てめぇ」

「やるアルか?かかってくるヨロシ!」



思い切り踵落としを食らった頭を抑えながら、ぎとりと銀時は神楽を睨み上げた。

さっと戦闘態勢をとった神楽と、こんにゃろうと唸った銀時はギャアギャアと騒ぎながら春子争奪戦を繰り広げだした。

・・・ガキだ。



「・・・はぁ。ったくなんでいつもあぁうるさいんだろ・・・う?」



盛大に溜め息をついた直後、ふと目が合ったのは銀さんでも神楽ちゃんでもなく、



春子さんだった。



ぱちくり、という擬音が似合うような瞬きを数回繰り返す春子は、二つの大きな目を丸くして新八を真っ直ぐに見つめている。

新八もまたその視線から己の視線を逸らせずに、口をパクパクとさせた。



「あ・・・あの・・・こ、ここは・・・?」



先に口を開いていたのは新八だが、言葉を発したのは、春子だった。

やわらかい声が小さく響き、ここが万屋だということを一瞬忘れた。

瞳から視線が逸らせず、春子さんに、・・・そう、魅了されていた。




だから気づかなかったのだ。

いつの間にか静かになった部屋の中、


背後から真っ直ぐに自分に向けられている、膨大なる殺気に。













これが、春子さんとの出会いだった。

















名前が春子になっているの仕様です。
神楽が勝手につけただけなので、ご心配なく!



200505??


修正@20090103