それは風が少し冷たく感じ、なんとも過ごしやすい気候になった気持ちのいい晴れた日のこと。


今日も一日頑張りました!と自分を褒めながら帰る夕暮れの帰り道。
長く伸びた影を見下ろせば、なんだか自分の身長が本当に伸びたようで、ふふんと優越感に浸る。

これから隼人の家に行って、文句を言われながらご飯を作るのだ。
あーだこーだ言うけど多分あれは照れ隠し・・・だと思う。隼人の作るご飯の方が実際美味しいけど、喜んでくれてるの・・・だと思う!



「さてメニューは何にしましょうか」



あれれ。
こんなこと考えながら帰るなんて、なんだか奥さんみたいじゃない?新婚さんみたいじゃない?

そんなことを考えた途端なんだか胸がおかしく高鳴って、あれ、なんだこれ。もしかして私隼人の奥さんになりたいの?


どきんどきん。


・・・あぁ、そうか。私の心拍数はなんて正直。
文句言われても、馬鹿にされても・・・それでもご飯を作りに行くのは、私の勝手な自己満だけど、もしかしたら本当は迷惑なのかもしれないけど、隼人の傍にいたいから・・・なのかも。

うわぁ・・・私ってばなんて乙女思考、気持ち悪い!

でもでもでも気付いちゃったから、もうなかったことになんてできないし、・・・考えてみれば隼人の時々子供みたいに無防備に笑うあの表情とか、意地悪するけど本当に嫌なことは絶対しない優しさとか、そーゆうとこすごく・・・・・・、



あぁ、そっか。そうなんだ。


私隼人が好きみたい。




「・・・はっ!!こ、こんな時に気付いちゃってどうしよう!?」



隼人のマンションまでは真っ直ぐ行ってそこを右に曲がって、それで着いちゃうくらい間近なのに、なのに、こんな変な中途半端に気付いた気持ちのまま向かうなんて・・・いくら私でもそんなに度胸は据わってません!!

なのに歩む足は止められなくて少しだけスピードを落としたまま一歩一歩マンションへの道を行く。
伸びた影がノタノタと進む私と同じようにノタノタ揺れる。あががが、どうしよう、もう、心臓がうるさい!



!」


「!」



どっきん!突然の呼び声に考えていた事が事だけに私の肩は跳ね上がる。思わず息まで止まるとこだったよ、馬鹿!

高身長のはずの私の影を悠々と追い越すさらなる影。
弾んだ息遣いの中に呼ばれた自分の名前は、止まらぬ足をいとも簡単に止めてくれた。



「や・・・山本」



山本は真っ赤な夕焼けをバックに両手を膝につき、ハァハァと肩を上下させて呼吸を整えている。

なんとか隼人の家に行くまで執行猶予ができた、うん、山本と話してる間に落ち着こう。なんたって天然さんだ、癒し効果もあるだろう・・・なんて小さな安堵感に息を吐いた。



「どしたの?そんなに息切らして」


「あのな、俺、考えたんだっ!」


「何を?」



顔を上げた山本はすっごい笑顔で、額からは汗が流れ落ちた。夕日も汗も山本の爽やかなスポーツ少年さを感じさせ、普通にカッコイイなコイツと思った。



「んー、色々?」


「何それ!」



思わず笑ってしまった私を、山本がここからが重要なのな!って窘めるから、私はうんと返事をした。山本は真っ直ぐ私を見てて、私は頭にハテナが浮かぶ。



が帰って行くの眺めてたら、なんか俺ドキドキしててさ。考えてみたらいっつものことばっか考えてた」


「・・・・・・」


「んで、自覚した途端いてもたってもいらんなくてさ、気付いたら部活さぼって走ってた」


「・・・・・・、」


「気付いたんだ・・・、俺、のことが好きなんだって!」


「・・・・・・へ」



え?なに?山本は何言ってるの?
考えたら気付いたって?え?何それどうして私と一緒。

どうしようどうしよう。

どきどきどきどき、心臓がウザったいくらいにうるさい。もう、これ、壊れるんじゃないかな、大丈夫かな。
癒されるどころか、こんなんじゃ余計どうしていいかわからないよ。



・・・あんさ、そんな困った顔しねぇでほしいのな!俺、ただ伝えたかっただけで、・・・そりゃの気持ちとか気にならねぇっつったら嘘だけど」


「・・・・・・」


「んでも・・・いいんだ、伝えられたし!」


「・・・・・・山本」



ただ黙ってぽかんと山本の話を聞いている私の姿は、きっととんでもなく間抜けだったに違いない。
それでも私はなんとか口を開いて、鞄を握る手にぐっと力を篭めた。



「明日、話そう」


「・・え?・・・・・ちょ、おい!?」



私は走り出していた。それこそへたばらないほどの猛ダッシュ。
揺れる鞄がうっとおしくて、えいと背中に背負ってみる。

向かう場所なんて決まってる、私は山本と同じことを考えてて、同じ行動をとっている。あぁ、なんという滑稽で青春っぽいシンクロだろう。

走って曲がって、マンションが見えても近づいてもスピードは落とさない。はた迷惑にマンションにバタバタと駆け込んで、エレベーターのボタンを高速連打。

・・・ちくしょう!なんでこんな時に止まってるのは最上階!!

エレベーターが来るのなんて待っていられなくて、私は非常階段を駆け上がる。息は上がって、足はガクガクして、汗もびっしょりかいていた。

隼人の部屋の前でインターホンを押した時、ハァハアと肩で息をしながらなんでこんなに頑張ったのかと今更疑問が浮かんだ。
絶対エレベーター使った方が早かった・・・。



『開いてる』


「は・・・は、い」



いつもの声に途切れた返事をして、がちゃりとドアを開ける。
途端に聞こえた、おっせーと言う隼人の声。ごめんなさいね、こっちは色々あったのさ!・・・って、え、隼人、私を待っててくれてたの?

ドキドキ。

靴を揃えもせずに廊下を駆け抜け、隼人のいるリビングに文字通り転がり込んだ。



「・・・だっせー。なにやってんだテメー」



ソファーに腰掛けていた隼人の目が驚きに見開いた後、呆れたように細められた。
私はそれを床にぶっ倒れたまま見ていた。足がガクガクしてもつれて転んだ。このマンションの階段を登るのはもうやめよう。



「あの、あのあの隼人」


「誰があのあの隼人だ、馬鹿。ちゃんとしゃべれ」


「あのね、だから、考えたの、」


「は?今日は一段と日本語おかしいな」


「ちゃんと聞いて!隼人のこと考えてたの!・・・そしたら私奥さんみたいで、あれ私お嫁さんなりたいの?ってなったらなんか隼人の笑顔とか思い出して・・・」


「はぁ・・・?」



本格的に首を傾げた隼人は未だ倒れたままの私に呆れたのか、傍にきて手を差し出してきた。
私は躊躇いもせずその手を借りた、なのに変だ今日はこんなにもドキドキしてる。



「・・・そしたらね、私、・・・隼人が好きみたい!」


「・・・・・・は?・・・んな!?」


「ドキドキして、ドキドキして、今もおかしい。でもね、そしたら山本も同じだった!」


「は?ちょ、何がだ?野球馬鹿も同じ?」


「山本もドキドキして気付いたんだって!あの、なんか、私のことが好きだってこと!」


「はぁ!?」



そこで大きな声を出した隼人。突然慌て始めて、ちょっと待てと繰り返す。



「ねぇ、どうしよう!どうしたらいい?私、こうして隼人といるだけでドキドキして死んじゃいそうだよ!」


「なっ、そういう恥ずかしいこと言うんじゃねぇ!」


「だって・・・」



おかしいの、おかしいの!
いつもは平気だったのに今日はなんだかドキドキどきどき。
これが山本の言う“自覚”ってやつですか?あぁ、なんだか私、どうしたらいいかわからない!
でもなんだかこれは伝えたい、もう一度ちゃんと、いや何度だって!



「隼人が好きなの!」






山本はこんな気持ちで私の所へ走ったんだ。
なんだかすごくもどかしいんだね。
山本はこんなにドキドキしてたんだ、あぁなんか申し訳ないな。


ねぇ隼人、ねぇ隼人!

私は只今混乱中です。

私は貴方が好きで、彼は私が好きで!
















どうしたらいいどうすればいい
いてよ





(「とにかくな!山本には今の自分の気持ちを素直に伝えろ!」)

(「へ?ドキドキして死にそうって?」)

(「ちげぇ!俺のことがす、好きだって!」)

































いつもと書き方を変えて書いてみました。
ちょっと不完全な終わりですな。
(ちょうどいいから、獄寺君誕生日おめでとう!9/9)



2007.09.06