空は晴れていた。
海はまるで心を入れ替えたように穏やかで
昨日の嵐なんて嘘のようだ。
でも
昨日の出会いは嘘なんかじゃない。
小さな、まるでお菓子の家のような可愛らしい家へ振り返る。
窓に人影はない。
――ざざん・・・
波の音が心地よく僕の身体中に響いた。
後押しされたようにゆっくりと歩き出す。
『また帰って来ますから、ね』
そう一度、自分に言い聞かせるように呟いて。
Divine Wind
――ざぁぁぁああ
「う、わっ!!いきなり降りだすなんて卑怯ですよーー!!」
ぱしゃぱしゃと海岸沿いの道を走りながら、アレンは誰に叫ぶわけでもなく独り言を言っていた。
任務のためにやってきたここは、遥か彼方まで広がる海が美しい港町だった。
アクマはレベル1が十数体、レベル2が1体となかなか手強いものだった。
無事イノセンスは回収できたものの、探索部隊の人達を犠牲にしてしまったのは事実だ。
「・・くっ」
アレンは顔を歪ませて舌打ちに似た声を出した。
助けられなかった、探索部隊の人達・・・僕たちエクソシストを信じていてくれていたのに・・・!!
「・・・ちょ、ちょっと!!危ないわよー!?」
突然後ろからかけられた声に我に返る。
「へ?」
その時、すでに遅し・・・
バッシャーーン!!
「―へくしっ!・・・ズズ。・・あのすいません。家にまで泊めてもらうことになってしまって」
「いいの、いいの!それにこんな雨だし、どっちにしろ今日なんか何処かに泊まらなきゃでしょ?」
ぽたぽたと水の滴るアレンの上着を暖炉の前で乾かしながらその人は言った。
「・・・あの、お名前聞いてもいいですか・・?」
アレンはその人の後姿を眺めながら聞いた。
背は自分と同じくらい。
少し色素の薄い瞳の彼女はこの町に似合わないほどの美しい容姿だった。
「ん?そうよね、自己紹介しないとね♪ ・。よろしくね、えっと・・」
「アレンです。アレン・ウォーカー」
「よろしく、アレン!」
にっこりと自分に向けられた笑顔がとてもとても嬉しかった。
何かとても惹かれるものがあった。
「よろしくお願いします、・・・・!」
自分が照れているのがわかった。
「ねぇ?アレン、聞いてもいい・・?」
小さなテーブルにお互い向かい合うように座りながら、はじっとアレンの目を見つめていた。
「?・・なんですか?」
の入れてくれたココアをズズッと飲みながらアレンはの真っ直ぐな視線に少し驚いた。
「えっと・・なんであんなに土砂降りの中走ってたのかな・・?って」
「・・・それは・・・」
アレンは言葉に詰まった。
なんて説明すればいい・・?
僕はアクマを退治しに来たエクソシストです。
なんて信じてもらえるはずがないだろう・・・。
「・・・・、」
「え、あ、ちょっと気になっただけだから、いいの!!気にしないで、ね!」
困ったように笑顔を作っては手をブンブンと振っていた。
アレンはそんなの様子を見て、なぜか少し安心した。
自分の髪の色のことも、目の傷のことも、
そして左手のことさえも何も気味悪がらない、そんなのことをホントに素敵な人だと思った。
アレンは答える代わりにニコッとに微笑んだ。
の顔が少し紅く染まったように見えたのは気のせいだろうか?
の手作りの夕食を食べた後
とアレンは二人でいろいろな話をした。
他愛のない話を・・・。
風がごぉっと強く吹いた。
カタカタと窓がゆれ、雨粒がガラスに当たってはじける。
小さな沈黙が流れる。
暖炉の炎に照らされたの横顔がひどく美しく見えた。
このままとずっと一緒にいられたら・・・
「・・・アレン」
「何ですか?」
いつの間にかこちらを向いていたはどこか悲しそうな瞳をしていた。
「アレンと・・・、アレンとずっと一緒にいたい・・・」
「え?」
自分の耳を疑う。
の言葉が自分の考えていたことと全く同じだったことに驚いて。
「・・・ごめんなさい^^ なんか今日私、変なの・・アハハ」
無理して笑ってる、のそんな態度がやけに可愛く思えた。
あぁ・・僕はのことが好きなんだ。
そしても僕を・・・?
言葉にならない嬉しい気持ち。
あたたかい感情。
・・・
「・・!」
そっとを後ろから抱きしめた。
自惚れでもいい、
自意識過剰といわれたってしょうがない。
「・・・ア、レン?」
「、好きです」
「え・・?」
抱きしめられたままのが小さく呟く。
「本当に・・?」
「はい」
「・・っ・・う、れし・・ぃ」
涙を流す。
僕の言葉で。
それさえも嬉しくて、止まらない。
「・・」
「え?・・・んっ・・」
会って1日も経っていない僕らがこんなことをするなんておかしいかもしれない。
「・・ア、レン・・・」
「・・・嫌、でした・・?」
でも
「うんう・・・、嬉しいっ」
僕たちは出会う運命で
ただそれが、ちょっと遅れていただけなんだと思う。
嵐は止みそうになく
僕たちはそのままお互いの思いを確かめるように
お互いの存在を確かめるように
夜が明けるまで、嵐が止むまで
愛に溺れ続けた
「アレン・・きっとその左手は神様の贈り物なんじゃないの?」
夜も明けようとしていたとき、は僕の左手を自分の頬にそっと当てて言った。
「え?」
にはエクソシストのことを話してはいないのに。
「だって・・十字架。きっと・・きっとそうよ」
そう言ってはすぅっと眠りについた。
の寝顔を優しく見つめ
額にキスをおとす。
「・・には何でもわかっちゃうんだね」
いつかきっと話そう。
エクソシストのことも
黒の教団のことも・・・
全て。
「・・・アレ・・ン・・?」
目を擦りながら上半身だけ起こすとそこにアレンの姿はなかった。
静かな波の音だけが聞こえる。
「アレンッ!?」
バタッとベッドから飛び降り、中央の部屋へ駆け込む。
「アレン何処?!」
――夢だったの・・・?
不安が押し寄せる。
カサッ
「アレン!」
音がした方向にアレンの姿はない。
代わりに小さな手紙が風に吹かれてテーブルの上から舞い降りた。
「・・?」
‘Dear’
の言うとおり僕は神の使徒なんです。
信じてもらえないかもしれない、でもなら信じてくれると僕は思っています。
帰ってきたらに全部お話します。
もし僕を信じてくれるなら待っていてください。
必ず帰ります。愛する貴女の元へ。
Fromアレン
「神の・・使徒・・」
の手から手紙が風に吹かれて再び舞い上がった。
窓から空へ空へ、と。
風が吹いた。
やわらかく優しい風が。
そうそれは
まるで 神風
海岸沿いの道を駆けてくる一人の青年。
顔には笑顔をうかべて。
「ただいま、!」
「おかえり・・・・・アレン!!」
たまには甘く、ハッピーエンドをと思って書きました。
(前のが暗すぎた・・・。)
あとアレン夢が書きたくて書きたくて。
もうちょっとちがくしたかったんだけどな・・・。