―第零夜―
「枢・・枢!」
幼い君は、僕を呼ぶ。
屈託の無い笑顔をたたえて。
「何?」
僕が返事をすれば、それはそれは嬉しそうに“あのね、”と話し出す。
幼い心にも恥じらいがあることを感じさせる君の薄紅に色づいた頬。
「あのね・・・わたし、・・・枢が大好きッ!」
ギュッと抱きついてくる君を受け止める。
ふわりと香る優しい香りと、あたたかい君の体温。
――君の全てを愛しいと感じた。
抱きしめる手を少しだけ強くして、君の存在だけを感じるかのように瞳を閉じる。
「僕も・・・が大好きだよ」
どうしようもなく愛しい人と、その人がいるこの世界。
それだけが僕の・・・宝物。
そう、誰にも譲れない・・・唯一無二の存在。
「・・・・大好きだよ・・・・僕の」
君は本当に嬉しそうに笑った。
だ が 、 そ ん な さ さ い な 幸 せ は
簡 単 に 、
事 も 無 げ に 、
・・・・ 冷 た く 崩 れ さ っ て し ま っ た ん だ 。
「ごめんッ・・・・ごめん・・・・、・・ッ!」
僕は深紅に染まった君を抱きしめながら
空を仰ぐようにして涙を流す。
絶望と 嫉妬と 怒気と そして・・・・後悔が、僕の全てを支配する。
漆黒の闇夜に浮かぶ月は
何時に無く
冷たい色をしていた。
――― 僕は どうすれば、いいですか・・・? ――――
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