一人ぼっちの部屋はどこかとてつもなく広くて、身を小さくすればそれはさらに強く強く・・・感じられた。
がいない、ただそれだけで、僕の世界はこんなにもモノクロになる。
「・・・・・・」
出掛けたを見送って、やっと二時間。
本を読んで、外を眺めて、眠りについてみて。
どれも上手くいかず、中途半端にやめてしまい、眠ることさえ今日はできなかった。
「・・・つまんない」
見つめた先の窓にからは細く日差しが入り込んでいた。
奇 跡 、 で も 僕 は 君 出 会 え た
「ただいまー」
ドアを静かに開けば、カーテンの閉められた薄暗い部屋はしんと静まり返っている。
あぁあ。千里ってばまた寝ちゃったのか。
思わず漏れた笑みはそのままに、千里がいるであろうベッドを覗き込む。
「・・・あれ?」
シーツは綺麗に整えられていて、そこに千里の姿は無い。
寝ていた形跡もなさそうだ。
「おかしいな・・・」
ベッドを意味もなくきょろきょろと眺めてから、予想が外れたことに首をかしげた。
くるりと踵を返し振り返れば、読むのに飽きたと言わんばかりにページを開かれたまま放置されている本が目にとまった。
そして、ソファからはみだした手も。
「みーっけ」
一瞬失った笑みもまた浮かび、静かにソファの前に回りこんだ。
千里の顔が見える辺りにしゃがみ込めば、小さく寝息が聞こえてくる。
目にかかった茶色の髪を指でのければ、閉じられた瞼に影を落とす長い睫毛に、思わず見入ってしまった。
「・・・千里、綺麗」
小さくそう漏らせば、その声は静かな部屋によく響き、少しだけ恥ずかしくなった。
馬鹿だな、私。
「・・・・ん、」
「!」
突然、千里はぴくりと眉を寄せ、寝苦しそうに閉じた瞼にぎゅっと力がこもる。
薄く開かれていた唇は、小さく動いているように見えた。
「千里、千里?」
なんだか苦しそうな千里になんだか心配が募り、気づけば掌を頬に当てていた。
嫌な夢でも見ているのだろうか?
うっすらと汗もかいているようだ。
「・・・・・っ・・・」
「え?」
“”
そう唇は明らかに私の名前を発そうと動いていた。
寝言で私の名を呼んでいる・・・?
「・・・千里、千里っ?・・・私、ここにいるよ」
眉間に寄った皺が緩くなると、瞼がピクリと動き、ゆっくりと開く。
思わずほっとした私は、千里の頬を優しく撫でた。
「・・・・」
ぼんやりと、うまく焦点の定まっていない瞳は、私を認識すると優しく細められた。
私を呼んだ声はどこか安堵したような声だった。
「ただいま、千里」
そう私が言っている間に、千里は腕を引き、私の頭をぎゅうっと抱きしめた。
前のめりになりながら、私はされるがままになる。
ふわりと千里の香りに包まれて・・・心地いい。
「お帰り、。・・・遅かった」
「そうかな。これでも急いで帰ってきたんだけど」
私の肩に顔を乗せ、耳元で喋る千里の声は少しムスッとしたものに変わっていて。
なんだかおかしかった。
「それより、千里、うなされてたよ・・・?平気?」
「ん。嫌な夢・・・みた」
「嫌な夢?どんな?」
「・・・・、が・・・」
「・・・私が?」
たっぷりと間を空けてから、千里はんー、と首を傾げて「忘れた」といった。
私は何それ、と笑う。
「ねぇ」
「なに?」
ソファの上に座る私の膝に頭を乗せる千里と、千里の髪をいじる私。
それがいつものお決まりのスタイル。
「駄目なんだ。僕、が傍にいないと・・・何もできない」
「え?」
「が傍にいないとやる気がでないし・・・悪い夢も見る」
「・・・・・・」
「・・・ごめん。こんなこと言われるの、・・・重い?」
閉じていた瞳を開き、千里は真っ直ぐに私を見上げた。
その瞳はどこか切なそうに揺れている。
「そんなこと・・・ないよ。千里・・・私、嬉しい」
「嬉しい?」
「うん。千里が私のこと必要としてくれるの、すごく嬉しい!」
驚いたように目を丸くし、そっか、とはにかむように千里は笑んだ。
私は千里の少し癖のある髪を撫でた。
「」
「ん?・・・んぅっ」
ぐいっと顔を引き寄せられたかと思えば、千里の唇と私の唇は重なり、触れるだけのキスを交わす。
一度離せば、もう一度、もう一度と。
角度を変え、何度も何度も、数えたらきりがないほどに。
「・・・っ、、好きだよ」
「・・・はぁ・・っ・・私も、好き・・」
その数に比例するように千里への愛しさは増して増して。
きっと一生減ることも、なくなることもないんじゃないかな、と思った。
ずっとずっと傍にいて。
僕はもう、君なしじゃいい夢すらも見れないんだ。
あぁ、もしも今が夢なのだとした、なんといい夢なのだろう。
僕は一生この眠りから覚めなければいい。
永遠にこのまどろみに溺れていよう。
君と、一緒に。
奇跡、でも僕は君に出会えた
たとえば今が夢だとしても。